news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

WHOの新たな空気質ガイドライン-一酸化炭素-

2021年11月のトピックでお伝えした世界保健機関(WHO)の新たな空気質ガイドラインのうち、一酸化炭素について概説いたします。

一酸化炭素は無味無臭のガス状物質で、有機物の不完全燃焼で生成される代表的な燃焼生成物です。

血液中のヘモグロビンは酸素と結びついて全身の組織に酸素を運んでいます。一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと強く結びつく性質を有しているため、一酸化炭素が血液中にあると、ヘモグロビンが酸素と結びつくことができなくなり、酸素不足が生じていきます。また、血液の中で一酸化炭素とヘモグロビンが結びついた状態が慢性化すると、赤血球が増加しやすくなり、血管の動脈硬化を促進するリスクが高まります。

WHOでは、これまで一酸化炭素による長期間の影響を考慮した空気質ガイドラインとして、24時間平均値で7 mg/m3を2010年に勧告していました。しかしながら、今回の改正においては、最新の科学的知見に基づいて再評価した結果、入院と心筋梗塞による死亡を指標とし、心筋梗塞が5.4%増となる日平均濃度として4 mg/m3を導出し、この値を24時間平均値の空気質ガイドラインとしました。

2010年
24時間平均値:7 mg/m3
8時間平均値:10 mg/m3
1時間平均値:35 mg/m3
15分平均値:100 mg/m3

2021年
24時間平均値:4 mg/m3(改正)
8時間平均値:10 mg/m3(現状維持)
1時間平均値:35 mg/m3(現状維持)
15分平均値:100 mg/m3(現状維持)

空気質ガイドラインのサイト
https://apps.who.int/iris/handle/10665/345334

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WHOの新たな空気質ガイドライン

世界保健機関(WHO)が新たな空気質ガイドラインを公表しましたので、ご紹介いたします。2021年9月22日に公表されました。これまでガイドラインが設定されていた物質の数値を変更した内容となっています。

近年、各物質の有害性に関する新たな科学的知見が集積されたため、今回の改正に至っています。空気質ガイドラインは、大気と室内の両方に適用されます。極めて重要な内容ですので、次回のトピック以降、各物質について概説したいと思っております。

・PM2.5
24時間平均値15μg/m3
年平均値5μg/m3

・PM10
24時間平均値45μg/m3
年平均値15μg/m3

・オゾン
8時間平均値:100μg/m3
ピークシーズン:60μg/m3

・二酸化窒素
24時間平均値25μg/m3
年平均値10μg/m3

・二酸化硫黄
24時間平均値:40μg/m3

・一酸化炭素
24時間平均値:4mg/m3

報道発表
https://www.who.int/news/item/22-09-2021-new-who-global-air-quality-guidelines-aim-to-save-millions-of-lives-from-air-pollution

空気質ガイドラインのサイト
https://apps.who.int/iris/handle/10665/345334

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空気汚染物質と新型コロナウイルス感染症

従来より、RSウイルス感染症やインフルエンザなどの呼吸器感染症では、PM2.5などの空気汚染物質が気道のウイルス感染に関与していることが報告されていました。

気道で組織の炎症や損傷を引き起こす空気汚染物質に曝露していると、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに曝露した際に、感染や発症を引き起こしやすいからです。

COVID-19についても、昨年来、このことに関する研究が実施されてきました。私自身も日本の第一波の初期で研究を実施し、その可能性を報告しています。なお、第一波で緊急事態宣言が発令されるようになってからは、行動制限の影響が大きく、その後は実態調査の研究が難しくなっています。

「新型コロナの第一波は天気が良い日に感染拡大リスクが高かった、近大が解析」
https://news.mynavi.jp/article/20200821-1239314/
Impact of climate and ambient air pollution on the epidemic growth during COVID-19 outbreak in Japan
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0013935120309397

その後、京都大学の高野先生のグループは、マウスの実験によって、PM2.5への曝露で新型コロナウイルスへ感染すいやすいことを報告しています。

「PM2.5で新型コロナ感染しやすく 京大がマウス実験」
https://www.asahi.com/articles/ASP236QYTP23PLBJ003.html
Exposure to particulate matter upregulates ACE2 and TMPRSS2 expression in the murine lung
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0013935121000165#!

他にも、COVID-19のパンデミック以前に粒子状物質の濃度が高かった地域では、COVID-19の感染率が高いとする報告があり(Travaglio et al. 2021)、気道で組織の炎症や損傷を生じる空気汚染物質への曝露は、潜在的にCOVID-19の感染や発症を引き起こしやすいのではないかと考えられています。

ただ実際には、大気汚染や気象などの外部環境要因よりも、人の行動の影響(マスク着用、行動制限)の方が大きいため、感染者数の変化は、人の行動の影響を大きく受けています。

しかしながら、感染リスクを増大するリスク要因をできる限り少なくすることも重要ですので、引き続き研究を進めていく必要があると考えています。

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フランス環境省による家庭用薪ストーブからの粒子状物質排出抑制対策

ストーブや暖炉で使用される薪や木質ペレットなどを燃焼する際に、燃焼状態や条件が悪いと大量の粒子状物質が発生します。

フランスにおける2018年の微小粒子状物質(PM2.5)の排出量は、家庭用薪ストーブ等から排出されるPM2.5がフランス全体の43%であったと報告されています。また、このような排出源からの微小粒子状物質で年間4万人が死亡していると推測されています。

このような状況を踏まえて、フランスでは2030年までに微小粒子状物質の排出量を半減するための対策を策定しました。具体的には、暖房装置の買換えの促進、排出量を低減した高性能装置の開発、燃料の品質向上、含水率の上限設定、高汚染地域での木材燃焼による暖房の規制措置などになります。

日本におけるPM2.5の国内での主な排出源は、自動車や船舶の排ガス、アンモニアを発生する農業や畜産、火力発電所、ばい煙や粉じんを排出する工場などであり、家庭からの排出量の割合は小さいと報告されています。

私は、住宅の調査で家庭用薪ストーブを使用している世帯をいくつも訪問し、展示場の見学もしましたが、薪ストーブによる暖房は暖かく、炎の揺らぎや炎のオレンジの色はヒトに対してリラックス効果を与えます。燃焼状態が良好なためか、粉じん等の排出はほとんどみられませんでした。

フランスでは、燃料の品質や暖炉等の装置にさまざまな技術的課題があるようですが、居住者に対する良い効果を有効に利用するためにも、バランスのとれた燃料や装置の開発に取り組んでいただければと思います。

 

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WHO報告書:健康住宅を促進するための政策や法規のまとめ

WHOが1月28日に公表した、「健康住宅を促進するための政策や法規」を紹介します。「住宅と健康のガイドライン」を2018年に公表して以降、このガイドラインを各国がどのように実行するかについて検討がなされています

但し、ガイドラインをどのように実行するかについては、各国の社会経済状況の影響を大きく受けることもあり、各国におけるWHOの住宅と健康のガイドラインの実施をサポートする目的で、各国における健康住宅に関係する政策や法規制等をレビューして「Repository: 所蔵庫」としてとりまとめたものを2021年1月に公表しました。各国の政策や法規制等の概要がまとめられています。

Policies, regulations & legislation promoting healthy housing: a review
https://www.who.int/publications/i/item/9789240011298

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WHOによる室内換気のロードマップ

2020年9月のトピックにおいてWHOからの情報としてお伝えしたように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主要な感染経路は、飛沫感染と接触感染と考えられています。しかしながら、エビデンスはまだ十分ではないのですが、換気の悪い閉鎖空間で飛沫核感染(空気感染)が生じた可能性がある事例がいくつか報告されており、予防的措置として適度に換気を行うことが推奨されています。

そこでWHOでは、COVID-19の状況下において、適度な室内換気を確保することや、そのための改善方法について、関連する専門家によるレビューを改めて行い、そのロードマップを2021年3月1日に公表しました。

室内換気は、COVID-19を含む呼吸器感染症の拡大を抑える包括的なパッケージの一部ではあるが、換気だけ(例え適切に実施されていても)では適切な保護レベルを提供するには不十分であり、マスク着用、手指消毒、身体的距離、咳エチケット、検査、接触者追跡、検疫、隔離、他の感染予防策がCOVID-19の二次感染を防止するには決定的に重要としたうえで、医療施設、非住居施設、住居施設における適正な室内換気量や空気浄化装置の使用および改善策に関するロードマップを公開しました。

各施設における換気条件については、WHOの医療施設に対する感染予防ガイドライン、欧州規格の換気基準等、以前からある換気条件をとりまとめたものとなっており、COVID-19専用の基準ではありません。しかしながら、COVID-19の流行下において、良質な換気を確保するために、建物のオーナーや管理者は、適切な状態で空調設備等が運用されているかをチェックするよう推奨しています。詳細は、以下のサイトから資料を入手することができます。

Roadmap to improve and ensure good indoor ventilation in the context of COVID-19
https://www.who.int/publications/i/item/9789240021280

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建築物衛生管理に関する検討会

建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)は、特定建築物(延床面積3000平方メートル以上の興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、旅館、延床面積8000平方メートル以上の学校)に適用される法律で、温度、相対湿度、二酸化炭素、一酸化炭素、浮遊粉じん、気流、ホルムアルデヒドに対して、空気環境の調整に係る建築物環境衛生管理基準が定められています。

この法律は、1970年に施行されて以来、特定建築物の維持管理関係者に広く浸透し、衛生規制として重要な役割を担っています。また、対象外施設の維持管理基準やガイドラインとしても広く参考とされ、活用されています。

2003年4月に改正がなされて以降、見直しが実施されておらず、この間、特定建築物を取り巻く状況は大きく変化し、建築物はより大規模化・高層化が進んだことに加え、建築衛生設備・機器に関するICT 技術が大きく進展し、さらに、国際機関では室内環境基準について新たなガイドライン等が開発されています。

これらの状況を踏まえ、標記の検討会を開催し、特定建築物の要件、国際基準等を踏まえた建築物環境衛生管理基準の見直し等、適切な建築物衛生管理に必要な事項について検討が開始されました。

以下の厚生労働省のホームページに概要が掲載されていますので、ご参考いただければ幸いです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/kenchikubutsueiseikanri-kentoukai.html

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米国環境保護庁の微小粒子状物質(PM2.5)の大気質基準について

PM2.5については、世界保健機関(WHO)が年平均値10μg/m3、日平均値25μg/m3の空気質ガイドラインを2005年に公表後、米国環境保護庁が2006年に年平均値15μg/m3、日平均値35μg/m3の大気質基準を策定していました。その後、米国環境保護庁は、国内の医学会からの要請を受けて、2012年に年平均値を12μg/m3に下げました。

PM2.5については、2005年にWHOが空気質ガイドラインを公表して以降、さらに低濃度での影響について多くの研究結果が報告され、WHOや米国環境保護庁で再検討がなされてきました。

米国環境保護庁では、その再検討の結果、現行の大気質基準であるの年平均値12μg/m3、日平均値35μg/m3を変更しないという決定がなされ、昨年12月に公表されました。

米国におけるPM2.5の大気中濃度はおよそ世界平均の5分の1程度となっており、PM2.5の平均濃度は2000年から2019年に44%減少しています。現行基準の据え置きは、科学委員会への諮問や6万件以上のパブリックコメントを踏まえて決定されています。

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ドイツの室内空気質ガイドライン-ベンゼンとベンゾチアゾール-

1)ベンゾチアゾール
ガイドライン1:15 μg/m3(暫定値)
主な排出源:加硫促進剤や酸化防止剤としてゴム製品に添加

2)ベンゼン
1.0 μg/m3(10万分の1の発がんリスク)
0.1 μg/m3(100万分の1の発がんリスク)
主な用途:一般溶剤、油脂、抽出剤、石油精製など

日本では環境省がベンゼンの大気環境基準として、1年平均値で3.0 μg/m3(10万分の1の発がんリスク)を定めています。

(参考)
ガイドライン2は健康影響ベース、ガイドライン1は予防のためのガイドラインです。ガイドライン2を越えていたならば、特に、長時間在住する感受性の高い居住者の健康に有害となる濃度と判断されるため、即座に濃度低減のための行動を起こすべきと定義されています。

ガイドライン1は、長期間曝露したとしても健康影響を引き起こす十分な科学的根拠がない値と考えられています。しかし、ガイドライン1を越えていると、健康上望ましくない平均的な曝露濃度よりも高くなるため、予防のために、ガイドライン1とガイドライン2の間の濃度である場合には行動する必要があると定義されています

従って、ガイドライン1が、長期間曝露による健康影響を未然に防止するうえで目指していくべき室内空気質といえます。

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米国環境保護庁によるCOVID-19と室内空気に関する情報

COVID-19の感染は、主として人と人が濃厚接触することで生じると考えられています。しかしながら、新型コロナウイルスは、長時間空気中に残存することが報告されており、人と人の近接よりもさらに長い距離の間隔でも感染が生じるのではないかと危惧されています。

従って、まだ明確にはわかっていませんが、感染者との濃厚接触に加えて、室内環境中における飛沫核(空気中に浮遊する微粒子)によって、感染者との距離が2m以上でも感染が生じるかもしれないと危惧されています。

米国環境保護庁は、室内環境中における飛沫核を通じた感染には不確実性はあるが、precaution(予防措置、事前注意)の考え方に基づいて、この感染経路に対する対策を推奨しています。具体的な予防措置(precaution)としては、マスクの着用、社会的距離(2m)の確保、ウイルスで汚染された表面の清掃や消毒、手洗いの励行といった通常の感染予防策とともに、外気との換気を増やすことや空気の浄化(濾過)を推奨しています。

詳細は、以下のサイトにございます。次月度からは、さらに個別の対策の内容について米国環境保護庁の情報から紹介していく予定です。

Indoor Air and Coronavirus (COVID-19)
https://www.epa.gov/coronavirus/indoor-air-and-coronavirus-covid-19

なお、私と私の研究者仲間で、COVID-19の感染に係わる環境要因と、その対策に関する論文を執筆し、昨日公表しました。Environmental Health and Preventive Medicineという国際雑誌です。私の論文
の中でも、室内環境中における飛沫核(空気中に浮遊する微粒子)による感染については、不確実性はあるが、precaution(予防措置、事前注意)の考え方に基づいて、日本では換気が対策として推奨されていることを述べています。

Azuma K, Yanagi U, Kagi N, Kim H, Ogata M, Hayashi M. Environmental Health
and Preventive Medicine 2020;25:66.
https://doi.org/10.1186/s12199-020-00904-2
https://environhealthprevmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12199-020-00904-2

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