LET IT BE

古道具担当が引き取ってきたモノの中に、CDが数枚あった。しかしジャケットと中身がばらばらで、ダイアナ・ロス+ザ・シュープリームスの『THE ULTIMATE COLLECTION』の中には『THE BEST OF THE RONETTES』が、サイモンとガーファンクルのベストにはサム・クックの『GREATEST HITS』が入っていた。ビートルズの『LET IT BE』もあるが、見たことないジャケットだ。4人の写真ではなく、『THE BEATLES 13 LET IT BE』という文字とユニオンジャックが最低限の記号のように印刷され、企画ものっぽい。歌詞カードはあるが、虫食いだらけである。

以前の引き取りでもビートルズ全集と書かれたカセットテープがあった。演奏はブラックベアーズ、サブタイトルは『世紀の名曲集』… どれどれと聞いてみたら、ゲット・バックから始まるオール・インスツルメントで、室内は一気に昭和の場末の喫茶店に。だからこのCDもその類かと思いきや、中身は正真正銘の『LET IT BE』だった。ビートルズは10代の頃からとても好きだったので、曲を聞けば気分は中学生だ。しかし、ひと通り聞いてみて、あれ? と思った。収録曲は覚えていたが、曲と曲の繋がり方などの記憶は曖昧だ。

好きなわりには全てのアルバムを持っておらず、前半6枚と最後のアルバムは買うきっかけがないまま今まできた。カバーやコンピレーションは持っているのに本家の収集意欲は乏しく、貸しレコード屋にお世話になったり、その時々の自分の気持ちと懐具合で、CDの時代になってから買い足した。

ビートルズを最初に聞いたのは小学校高学年、近所の英語教室だった。多分先生はその世代だったのだと思う。ルックスは細身で、薄い色のサングラスにひげ、ベルボトム。奥さんはスウェーデンの方。大きなシェパードをたまに放し飼いにしていて、自分の家とは違う空気が流れている。勉強の後はおしゃべりの時間で、紅茶を頂きながらいろんな話をしてくれた。先生というより年の離れた親戚のお兄さんという感じだ。

ある時先生が『ABBEY ROAD』のレコードをかけてくれた。ぱちぱちというけっこうな雑音と共に聞いた『Here Comes The Sun』は、明るい光に満ちたすてきな曲だった。しかしその頃にはビートルズは既に解散していたから同時代では聞けず、ラジオから流れるそれぞれの曲を楽しみに待っていた。

ラジオも自分には大切なものだったが、そこにお小遣いを貯めて買った赤いポータブルプレーヤーが加わる。懸賞で手に入れた赤盤青盤を何度もかけて、一緒に歌ったりした。父には「うるさい!」としょっちゅう怒られていたが、今思えば父の休みを妨げて申し訳なかった気もする。70年代前半、高度経済成長期のサラリーマン家庭のひとコマである。

たまたま手元にやってきたCDで、はるか昔の些末なことなど次々に思い出し、そういう日々の積み重なりなんだなと思う。そして自分では知っていると思っていたことも、実はたいして分かっておらず、いかにうろ覚えだったかということもはっきりしてしまった。今はすぐに検索できるから、そういうことも少なくなったけれど、“適当”なまま置いておくのもありかな、とも思う。ちょっとしたことに改めて気付いたりすると、素直に楽しい。今『LET IT BE』を聞くと、絶妙な編集でぎゅっと引き締まったいいアルバムだなぁ、と歳を経た心の中に染み入ってくる。

12反故によるletitbe