news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

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フランスの室内空気質ガイドライン

5年前の2010年7月のトピックで紹介したことがありますが、その後さらに指針値が設定された物質が増えたので、改めて紹介します。

本内容は、5月中旬にオランダで開催された国際学会「Healthy Buildings Europe 2015」でフランス食品環境労働安全衛生庁(ANSES)が発表していました。

ただし、これらのガイドラインは、ANSESの勧告であり、フランスの正式なガイドラインではございません。日本と同様に審議会で検討されて正式なガイドラインとなっていきます。

1.ホルムアルデヒド(2007年専門委員会報告)
短期間曝露(2時間):50μg/m3
長期間曝露:10μg/m3

2.一酸化炭素(2007年専門委員会報告)
15分間曝露:100mg/m3
30分曝露:60mg/m3
1時間曝露:30mg/m3
15分曝露:10mg/m3

3.ベンゼン(2008年専門委員会報告)
長期間曝露:
・非発がん影響10μg/m3
・発がん影響2μg/m3(10万分の1のリスク)
・発がん影響0.2μg/m3(100万分の1のリスク)
中期間曝露(14日-1年、非発がん影響):20μg/m3
短期間曝露(1日-14日、非発がん影響):30μg/m3

4.ナフタレン(2009年専門委員会報告)
長期間曝露:10μg/m3

5.トリクロロエチレン(2009年専門委員会報告)
長期間曝露:
・発がん影響(10万分の1のリスク):20μg/m3
・発がん影響(100万分の1のリスク):2μg/m3
中期間曝露(平均15日の非発がん影響):800μg/m3

6.テトラクロロエチレン(2009年専門委員会報告)
長期間曝露:250μg/m3
短期間曝露(1日-14日):1380μg/m3

7.二酸化窒素(2013年専門委員会報告)
長期間曝露:20μg/m3
短期間曝露(1時間):200μg/m3

8.アクロレイン(2013年専門委員会報告)
長期間曝露:0.8μg/m3
短期間曝露(1時間):6.9μg/m3

9.アセトアルデヒド(2014年専門委員会報告)
長期間曝露:160μg/m3
短期間曝露(1時間):3000μg/m3
 

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WHO欧州による学校室内環境の現状と今後の方向性に関する報告書

報告書は、欧州地域における学校と幼稚園の調査結果を公表したもので、教室内のよどんだ空気、湿気やカビ、不快な室温、不便なトイレなどによって、児童生徒の健康影響や欠席率の増加、学業成績にまで影響を及ぼすと報告しています。

室内空気質では、教室内の換気不足やよどんだ空気の問題は、冬期にいくつかの国で生じていること、湿気やカビの問題も同様にいくつかの国で生じていると報告しています。

化学物質では、ホルムアルデヒドに関するWHOの室内空気質ガイドラインを超過している国はみあたらないが、ベンゼン、多環芳香族炭化水素類、他の揮発性有機化合物類の室内濃度が高い国が散見されています。

ただし、いずれの問題も、高所得国では調査データがあるが、低所得国ではデータさえ存在しないことが、さらに大きな問題となっています。

また、室内空気汚染対策を行ってきたいくつかの国では、それぞれの国の政策が有効に作用してきたことが証明されており、その他の国でも、室内空気汚染による健康影響の問題に取り組み、特に室内汚染源からの汚染物質の排出を削減する取り組みが必要であると報告しています。報告書は以下のサイトから入手できます。

Poor indoor environments at school

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米国環境保護庁による3つの化学物質の使用禁止または使用規制の検討

米国環境保護庁によると、特定の用途に対して、これらの物質の使用禁止または使用規制を定めた規則の作成を計画しているとのことです。

トリクロロエチレンに関しては、工業用の脱脂洗浄剤、ドライクリーニング用の溶剤、特定の消費者製品が新規則の適用対象となっています。

n-メチルピロリドンとジクロロメタンに関しては、塗料と塗料除去剤(リムーバー)が新規則の適用対象となっています。

n-メチルピロリドンについては、今年の3月23日にリスク評価結果を公表し、妊婦や出産適齢期の女性が塗料や塗料除去剤を使用した際に高濃度のn-メチルピロリドンに曝露すると、生殖発生毒性に関するリスクが生じると評価しています。また、ジクロロメタンはn-メチルピロリドンの代替品であるため、ジクロロメタンも同様に規制しようとしています。

トリクロロエチレンは、昨年の6月25日にリスク評価結果を公表し、スプレー式の脱脂剤や定着剤を使用した消費者、小規模店舗内で脱脂洗浄剤やドライクリーニングのしみ抜き剤としてトリクロロエチレン使用した店舗の従業員に対して健康リスクが生じると評価しています。

なお、トリクロロエチレンは、昨年5月のトピックで紹介しましたが、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)はトリクロロエチレンを発がん物質(グループ1:ヒトに対して発がん性がある)に分類しています。

米国環境保護庁は、これらの3つの物質の使用禁止または使用規制を行った際に生じる影響について、4月10日までに関連業界、自治体、NOP法人等に意見を求めています。

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平成26年度生活衛生関連の厚生労働科学研究報告

平成26年度生活衛生関係技術担当者研修会(平成27年2月6日)

1)建築物衛生の動向と課題
2)シックハウス症候群の診断基準の検証に関する研究
3)トコジラミとその効果的な防除法
4)ヒトスジシマカの駆除事例
5)レジオネラ症の最近の話題と動向
6)感染源調査に係る遺伝子型別の最新情報
7)浴用施設におけるシャワー水のレジオネラ属菌分離状況
8)標準的検査法(培養法)と外部精度管理に向けた検討
9)各種泉質の温泉におけるモノクロラミン消毒の効果と施設への導入事例
10)温泉入浴施設におけるモノクロラミン消毒設備導入事例
11)入浴施設におけるレジオネラ症集団発生事例

以前より、レジオネラ症の問題は取り上げられてきましたが、依然として約10年前よりレジオネラ症の報告件数が増大しており、レジオネラ関連の検査や対策に関する報告が複数ありました。

また、昨年東京都内で発生したデング熱の感染例を受けて、デング熱の媒介蚊であるヒトスジマカの駆除に関する報告がありました。

シックハウス症候群の診断基準に関する研究報告があり、まだ継続中の課題ですが、今後確立していかなくてはならない重要な課題です。

ご関心のある方は、この研修会で報告されたpdfファイルを上記のサイトでダウンロードできますので、ご参照ください。

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デンマークにおけるフタル酸エステル類規制の動向

フタル酸エステル類は、主に塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル)の可塑剤として使用されています。可塑剤とは、樹脂を柔らかくする添加物です。他にも、溶剤、洗剤、繊維の潤滑剤、香料の保留剤、人工皮革など多くの製品に使用されています。

デンマークでは、2013年12月1日から、以下の4つのフタル酸エステル類を含む、室内で使用される製品の輸入と使用を禁止すると発表していました。一般的に、プラスチックに対するフタル酸エステル類の含有量は、数%から数十%必要であるため、0.1%の基準は実質的には使用禁止に相当する行政措置でした。

1.規制対象物質
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)
フタル酸ブチルベンジル(BzBP)
フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)
フタル酸ジ-イソブチル(DIBP)

2.規制対象製品
1)上記4物質の1つ以上を0.1%重量以上含む室内用途の製品
2)上記4物質の1つ以上を0.1%重量以上含み、皮膚や粘膜経由で曝露する製品

これは、欧州を中心とした研究で、フタル酸エステル類を含む室内ダストとアレルギー疾患や喘息症状との関係が示唆されてきたことが一因で、室内での曝露を最小限化するものでした。

これらの情報は、2013年4月のトピックで紹介していました。

ところがこの規制に対して、欧州委員会から、手続き上の問題やリスクに関する科学的根拠の不足等の指摘により、デンマークは本政令の施行を断念して2014年7月に撤回しました。

最近では、スウェーデンが、国内でフタル酸エステル類に対する対策を強化するための提案を2014年12月に行っています。具体的には、欧州連合レベルで特定の成形品(アクセサリー、グルーブ、バッグ、衣類、自動車、家具、スポーツ用品、靴、内装建材など)中の特定のフタル酸エステル類の含有量を欧州化学品規制(REACH)で規制するよう提案しています。

デンマークの規制に対しては、関係業界等からの反発もかなりあったと思われ、最終的にデンマークは規制を断念しました。ただし、フタル酸エステル類の健康影響に関する研究結果を共同で発表してきたスウェーデンが動き始めるなど、当面論争が続きそうです。

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世界保健機関(WHO)欧州の昨年12月のニュースレター(No.21)

1.塗装剤に使用されるナノ技術

窓の耐面ひずみ性や床材のシーラー(ハードコート剤)の耐擦傷性を向上させるために、近年、これらの塗装剤にナノ材料が使用されているようです。ナノ材料は、ナノサイズ(ナノとは、10の9乗分の1、または1/1000000000)の大きさの材料のことで、極めて小さな粒子や繊維状物質をあらわしています。例えば、カーボンナノチューブ、金属ナノ粒子、フラーレンなどがあります。極めて小さな粒子を使用しているため、塗料等の厚みを薄くできる、溶剤の使用量を削減できるなどのメリットがあります。

WHOのニュースレターでは、これらの製品が市場に導入される前に、人の健康や環境への影響に関して、開発元の企業が十分確認するよう警告しています。摩耗や劣化によって環境中にナノ粒子が放出され、人の健康や生態系に対して影響を及ぼす可能性があるからです。従ってWHOは、塗装剤の開発者はナノ粒子が環境中に放出されないようしっかり設計するよう勧告しています。また、これまでのところ、塗装剤のラベル表示において、塗装剤にナノ粒子が使用されているということを表示する義務はありません。そのため塗装剤の開発者は、消費者に対してナノ材料のリスクや製品の取扱法に関して十分説明するよう勧告しています。

2.交通騒音と空気汚染と脳卒中との関係

最近のデンマークの研究によると、交通騒音と空気汚染が虚血性の脳卒中に関係しているとの報告があったようです。交通騒音よりも空気汚染のほうが影響は強いようです。

これまで、交通騒音や空気汚染が虚血性心疾患に関係していることは示唆されてきました。空気汚染では、微小粒子状物質(PM2.5)が主な原因と考えられています。血液循環系の疾患という意味では共通していますので、脳卒中においても影響が示唆されてきたようです。

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米国環境保護庁による学校の建物改修時の室内空気質ガイドライン

このガイドラインは、学校で建物を改修する際に、健康で安全な室内空気質の確保とエネルギー効率の向上を両立させるためのガイドラインとなっています。

建物の改修や建設時には、粉じん、新たな汚染物質やその侵入経路、湿気、不十分な換気などの問題が発生しやすくなります。このガイドラインは、学校の建物の改修や建設時に、可能な限り有害な状態を防止し、エネルギー効率との両立をはかるためのチェックポイントを提供しています。具体的には、以下の項目に関するチェックリストを提供しています。

1) 湿気とかび
2) 有害材料(石綿、鉛、ポリ塩化ビフェニル)
3) 屋外の汚染物質と発生源(ラドン、自動車排気ガス、殺虫剤など)
4) 室内汚染物質と発生源(建材からの放散物質、燃焼生成物、オゾン、たばこ煙など)
5) 空調システム

以下のサイトからガイドラインを入手できます。

Energy Savings Plus Health: Indoor Air Quality Guidelines for School Building Upgrades
http://www.epa.gov/iaq/schools/energy_savings_plus_health.html

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国際がん研究機関が有機塩素系化合物の発がん性分類変更

2012年に印刷工場の労働者で胆管がんが多発したことが明らかになったことはご存じと思います。この原因物質として、印刷機の洗浄剤に含まれる1,2-ジクロロプロパンとジクロロメタンがあげられていました。

厚生労働省は、その後の全国での調査の結果、胆管がんは、ジクロロメタンまたは1,2-ジクロロプロパンに長期間高濃度曝露することで発症すると医学的に推定できることや、印刷工場の労働者で発生した胆管がんは、1,2-ジクロロプロパンに長期間高濃度曝露したことが原因である可能性が極めて高いと報告しました。

IARCは、今年の7月に専門家会合を開催し、日本での調査結果を踏まえて、1,2-ジクロロプロパンをグループ1(ヒトに対して発がん性がある)、ジクロロメタンをグループ2Aに変更しました。

1,2-ジクロロプロパンこれまでグループ3(ヒトの発がん性を分類できない)、ジクロロメタンはこれまでグループ2B(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)でしたから、いずれも格上げになりました。

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WHO電子たばこ報告書

電子たばことは、燃焼させて煙を吸入する従来のたばことは異なり、加熱によって発生した蒸気を吸入するたばこです。ニコチンを含む電子たばこもあります。電子たばこは、燃焼に伴う燃焼生成物が発生しないこと、たばこの先端からの副流煙が発生しないため、従来のたばこよりも喫煙者及び喫煙者周辺の人への健康リスクが低減されると考えられています。

しかしながら、これらに関するデータが不十分であることから、WHOは、電子たばこの屋内での使用や未成年者への販売を禁止すべきであることや、電子たばこが禁煙の助けになるとの主張を控えるべきと報告書の中で勧告しています。

WHOは、適切にコントロールされた電子たばこであれば、電子たばこの喫煙者は以前ほど有害物質を吸入することはほとんどないと考えられるが、どの程度健康リスクが低減するかは不明であると述べています。また、電子たばこの存在は、非喫煙者が喫煙を始めるきっかけになりかねないと懸念しています。

また、電子たばこであっても、電子たばこから排出されるエアロゾルは、室内空気中のいくつかの有害物質やニコチンや粒子状物質の濃度を上昇させるエビデンスが示唆されていると報告しています。例えば、電子たばこから排出されるプロピレングリコールで目や気道の刺激が生じたとの報告があります。

報告書は、以下のサイトからダウンロードできますので、ご関心のあるかたは、ご参考下さい。

WHOの電子たばこ報告書
http://www.who.int/nmh/events/2014/backgrounder-e-cigarettes/en/

 

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平成25年度シックハウス関連の厚生労働科学研究報告

以下のサイトに、厚生労働省が主催した平成25年度生活衛生関係技術担当者研修会の報告資料が公開されています。

平成25年度生活衛生関係技術担当者研修会(平成26年3月5日)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu-eisei/gijutukensyuukai/

これらのうち、ここでは以下の2つを紹介します。

1)建築物衛生の動向と課題及び環境衛生監視の実態
建築物衛生法に関連する空気環境基準等の実態や今後の課題が報告されています。以前にもトピックで紹介しましたが、事務所や学校用の建物で相対湿度と二酸化炭素の空気環境基準の不適合率がここ10年で上昇しています。

1つの原因として、個別空調設備が空調機の適用範囲に加わったことがあげられています。また、クールビズやウォームビズの温度の不適率原因の1つではないかと考えられています。個別空調設備のオフィスでは粒子状物質の濃度が中央方式のオフィスよりも高かったという結果も報告されており、空調機フィルタの捕集率の差が原因ではないかと考えられています。

その他、シックビルディング症候群関連症状と室内環境との関連では、粉じん濃度、アルデヒド類やトルエンの濃度、温湿度との関係が示唆されています。

2)室内空気環境実態調査の報告及び放射線問題の実態と対処法
全国500件規模の一般住宅における室内空気中化学物質を測定した結果が報告されています。そしてそのデータをリスク評価した結果、ベンゼン、二酸化窒素、ギ酸、塩化水素は、年間を通じてハイリスク傾向にあったこと、特にベンゼン、二酸化窒素、アセトアルデヒドは冬期にリスクが高い傾向にあり、生活習慣や燃焼型暖房器具からの排出物が関与している可能性が推定されることが報告されています。その他にも、化学物質に感受性が高いと考えられる人の全国調査などが報告されています。

上記以外では、レジオネラに関する最新の情報が報告されています。ご関心のある方は、この研修会で報告されたpdfファイルを上記のサイトでダウンロードできますので、ご参照ください。

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