第十回 苔

いよいよ庭の形が見えてきました。
嬉しいです。

木が植えられたので、次は下草のことですね。
低いところはどんな風に構成されていくのでしょうか。

 低い部分には細心の注意を払います。私は建物の足元をいかに綺麗に見せるかで庭の良し悪しが決まると思っています。
 今回は板塀の隙間と、板塀の束石がコンクリートで気になりましたのでまずは土を盛り盛った部分に植物を配置します。そうする事で地面と塀との妙な隙間はなくなり束石も上手く隠れたのでこれだけでもずいぶん印象が変わります。

苔

苔をはやすのですね。この苔ですが以前金沢にいらしたときにそこかしこに勝手に生えてきている苔に驚かれていましたね。(笑)

 はい。このお家には苔を入れたいと直感的に思いました。
 打ち合わせの時に建物の隅に苔が生えていたのでこれは行けそうだと。
 打ち合わせの後、金沢職人大学校を案内して頂いた時に至る所に苔が生えていてびっくりしました。庭を作る時の打ち合わせで気候の事をお聞きし、三重に戻って調べたら雨量が三重県より遥かに多くなるほど~と、一人で頷いていました(笑)

苔の種類でもランクがあると思うのですが、いくつか教えてくださいますか?

 主に私が使う苔はスギゴケ・ハイゴケ・スナゴケの3種類です。
 スギゴケは造園関係者なら苔と言えば真っ先に思い浮かべる苔の一つで僕は一番知名度が高いと思っています。
 杉の木に似ている事からそういう名前になったようで日本全国に生えています。
 生産者の元で生産されている時は物凄く生命力を感じるのですが、自分の庭に入れるとみるみる衰え物凄い速さで庭から姿を消し、何度も失敗した苔でもあります(笑)失敗は減りましたがいつも植える場所には気を遣います。
 ハイゴケはその名の通り、這うように生長する苔の一種です。黄緑や茶色っぽい色合いをしていることが特徴で、湿度さえあればどんな環境でも育つので全国に生息しており、様々な場所に生えています。今回の庭にもその苔が入っています。
 スナゴケも分布域が広く北海道から九州地方まで生息しています。積雪にも強く金沢市でも良く見かけた苔の一つです。
 直射日光と乾燥に強いので造園業者で使っている人も多い苔です。

苔

苔でもいろいろ種類があるので、驚きました。金沢で今回使う苔は、浅野川の付近から採取したのでしたね。どんな苔がありましたか?

 そうですね。苔は本当に種類が多く私も庭仕事で使う程度しか把握しておりません。
因みにですが兼六園では70種類程の苔が生きているようです。京都の苔寺などは100種類以上生えているようです。
 本当に多いですね。
 今回使用した苔は主にハイゴケとスナゴケ・ヒツジゴケ・コスギゴケとなっています。ギンゴケも採れましたがこの敷地には難しいかもという判断で大半は持ち帰りました。

これを植える時のコツなど教えてください。苔にすごく憧れがあったのですが、自分で植木鉢に生やそうとしたのですがあまりうまく行きませんでした。

 苔を育てるのはやはり地面との密着が上手く行っていなかったのかもしれません。
 植える時のコツは手のひらでパンパンと強めに叩き密着させるように植えるのが良いと思います。
 苔はポットに入っている植物や麻で巻かれた庭木と比べ土に設置する面積が少ない為、地面に密着していなければ枯れる可能性が高いです。
 先ほど採取した苔もそうなのですが水を沢山ほしい苔もいれば水がとても少なくても耐える苔もあります。
 更に風通しが良い所に生える苔もいればジメジメした所に生える苔も存在します。その為、苔を育てるのに大切なのは、どういう苔か本やインターネットで照らし合わせ、じっくり観察することが苔を増やす事への第一歩かと思います。

苔

苔がはいって、落ち着いた庭になりました。まるで以前からここに苔が植わっていたかのように見えます。
木、水鉢、踏み石、下草、苔、大和塀、全てが語りあっているように空気が通って凛とした庭になりました。
次回はこの庭の全体像をご紹介します。