第三話 空っぽの庭

西村さん、第一話第二話と庭についてお話しをすすめてきました。今回からは庭を作る実践をして行こうと思っています。金沢に町家がありまして、私自身の制作スタジオ兼、現代美術のギャラリーを7月22日にオープンしました。その金沢町家*はリノベーションしたばかりで、いまはまだ空っぽの庭スペースがあるのです。その場所を西村さんのアドバイスを受けながら作りたいと思いますが、どうでしょうか。

金沢町屋
 まさか、実践があるなんて思っていませんでした。とても面白い企画ですね。是非やりましょう!これから庭を作る方の参考になればと思います。まずはじめに庭スペースの写真を見せて頂きたいです。あわせてイメージされている庭をお聞かせください。

現在開催している展覧会(8月13日まで)のタイトルが『空の庭・からのにわ』です。布や紙などを使った現代美術のインスタレーションなのですが、作品は「空の庭」を大切な人が亡くなり残された者の心情に喩えています。写真のように今はまだ木も草もない土だけの状態です。私自身の制作場所から常に見える位置であることから、制作の合間に目を休め、心を緊張から解き放つこと、木々の存在が制作の励みになるような、思索の庭を望んでいます。

空の庭
 なるほど。金沢の歴史や文化を受け継いできた趣のある町家ですね。貴重な資産だけあってドキドキしてきました。制作場所からの庭の写真を拝見させて頂くと陽当たりも良さそうですね。何か植えようと思っている植物はありますか?

金沢の植生にそぐわないものを植えることは考えていません。金沢は四季がはっきりしています。雨がとても多く、年間通して湿度が高いです。春が長いのと、夏は気温が高く、日差しは強いです。そして秋から冬があっという間に感じられます。
例えば苔やシダ類が大好きです。じめっとした一日中日の当たらないところに生えている草も好きです。

 そうですね。北陸地方は雪で木の枝が折れないように、縄で枝を保護する雪吊りであったり薦で通路を覆ったり大切な灯籠の石が崩れてしまうのを防いだりと大きな庭園だけでなく、それが一般家庭にも浸透しているのを見ると庭を大切にし、気候の変化を楽しんでいる地域に感じます。

そうなんです。玄関先に植木鉢を置いていたり、お茶人口も多いので茶花を栽培し坪庭を持っているお宅も多いです。四季の変化を楽しめたら、と思います。冬が辛く長いので、春になったらあの芽がでるなあ、とか、紅葉がはじまってきたなあ、とか「変化する時間」を愉しめたら、と考えます。

 今回、植える場所は町家の中庭でありますから金沢の気候風土に合わせた植物を使う事で、家の中から庭が常に眺められてよりなごめる空間になると思います伝統的な町家とギャラリーとしての性格を引き立てる庭でありつつ、現代美術を見に来た人がほっとなごめる庭にしたいですね。

 

*金沢町家:金沢は、江戸時代最大大名の加賀藩前田家の政治、経済、文 化の中心として栄えた近世城下町の典型である。金沢は 400 年以上も戦禍 に遭わず、同時に自然災害の大きな被害を受けなかったことから、現在も当時 の都市構造と歴史遺産が残り、近世以来の伝統を伝える 多様な文化や工芸技術が息づいており、このような金沢の全体像を特徴付け る歴史文化資産のひとつに金澤町家がある。