第九話 室生犀星の庭づくり

前回は石の配置についてお伺いしました。
今回は植木についてお話を進めたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

トラックに木が搭載されて、圧巻です。結構背の高い木を持って来てくださったのですね。
持ってきてくださった木の名前を教えてくださいますか?

 はい、背の高いものとしてはウメモドキ、ヤブツバキ、ベニカナメモチ、ワビスケ
中くらいのものとしてヒサカキ、センリョウ、ナンテン、アオキ、コバノズイナ、ナツハゼ・ドウダンツツジ。
 下草としては、シダ、フッキソウ、ツワブキ、リュウノヒゲ です。

室生犀星の庭作り

素敵です。どんなふうに構成されていくのでしょう。

 初めに主木であるウメモドキから配置していきます。その次に沓脱石(くつぬぎいし)と素材の持つ力の強いものから順に納めて行きます。
 力の強いものは安易に場所を決めてしまうと後半で必ず歪みが出るので、家の中や洗面化粧台、勝手口の扉と見えるところ全てに気を配ります。

なるほど、建築と同様、庭作りは視覚的にも構造的にも繊細な配慮が必要なのですね。

室生犀星の庭作り

 はい。室生犀星の庭の作り方を読んで更に納得したのですが庭は隅から作ると書いてありました。

 ここに一文を抜粋します。
 「庭は隅の方から作ってゆく。一つの隅を作り終へたら、又次の隅の一部から疊(畳)んでゆくのである。そして三方或ひは四方から作り上げて行くうちに
庭の中心がひとりでに出来上がるのだ。庭の真ん中から作って行ったら滅多にかたがつくことがない。魚を料理(つく)るに真ん中から庖丁を入れることは、料理(つく)ることを知らない人のすることである。
腹や頭から庖丁を入れねばならぬ。それと同じやうに隅から作りあげ、ひとりでに中心を殘(残)して行ったら、そこで中心をぎゅっと縮めるやうな心で、最後に帳〆をするのであるが、この一點(点)の仕上げの行き方で、庭を活かすとも殺すこともできるのである。」
 

うーむ。なるほど、犀星は金沢人ならではの、繊細で且つ粘り強い魂の人だったようですが庭に対するこだわりは一筋縄ではなかったようです。文章を読んで彼の庭に対する厳しさが伝わってきます。
ところで、家の後に専門学校の建物があって、その窓から見下ろされているのが気になっていたのですが、これで隠れるようになりますね。

 はい。学校の窓が見える部分には常緑の木を配置しました。この常緑というのが大切で、落葉(らくよう)の木ですと期間が限定されてしまうのでやはり室内から気になってしまいます。例えばこの家と全く同じ素材であれば落葉でも問題ない(きっと視線も案外気にならない)のですが、外壁の素材が大きく異なるので常緑を立てぼやけさせる事で違和感も視線も減ると感じます。

そうだったのですね。ご配慮をありがとうございます。
土の事なのですが、木を植えるときは土の中には肥料などが入るのでしょうか。

 私は基本的に科学肥料や動物性肥料は使っておらず、ここでは燻炭(くんたん)とバーク堆肥(たいひ)を使います。
 燻炭は土に加える事によって水はけや通気性が良くなります。多孔質でもあることから土壌菌という微生物が住みやすい環境をつくることによって植物に良い影響を与えるだけでなく病気の予防にも繋がります。また酸性雨が降る事で酸性に傾いた土壌を中和してくれる働きがあります。
 バーク堆肥は広葉樹のみの物を使用しており 通気・保水に優れているのと植物の生長成分である窒素・リン酸・カリウムを含んでいます。
 他の庭ではピートモスやパーライトなどを使う事もあります。その場・その土地・使う植物を考えて使い分けています。

燻炭(くんたん)とバーク堆肥(たいひ)

自然に優しい有機的な土でありがたいです。微生物が環境を作り、病気の予防にもなるのですね。安心して植物が育ってくれるように思いました。
 冬湿度が高く雪が降るので、根付いてくれるかどうか心配ですが、そのあたりは大丈夫でしょうか。

 金沢での仕事は初めてですので、正直心配なところはありましたので植物の分布を確認し、金沢の名園をいくつか拝見した中で今回選んだ木は金沢の地で育っていた木を選びました。
 あとは私の土壌改善だけだと思いますが上手く行ったと思っております!ダメだったらちゃんと対応しますのでご安心下さい(笑)

それを伺って安心しました。西村さんの庭に対する造詣深さを聞くにつけ、大事に守らなければならない、という気持ちになってきます。
今後ともよろしくお願いします。