news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

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米国環境保護庁の4カ年戦略計画

米国環境保護庁は、2014年から2018年までの4カ年戦略計画において、以下の5つを戦略目標と位置付けました。

1)気候変動への取り組みおよび空気質の改善
2)国内の水域の保護
3)地域社会の浄化と持続可能な開発の推進
4)化学物質の安全性の確保および汚染の防止
5)法の執行と遵守の確保による人々の健康と環境の保護

米国では、日本と異なり、環境保護庁が室内環境を所掌しています。室内環境に関係するところは、1)空気質の改善です。空気質の改善では、健康や生活保護に基づいた空気汚染の基準の達成と、有害な空気汚染物質や室内空気汚染物質による健康リスクを削減することが戦略目標となっています。

米国では2003年から2011年にかけて、PM2.5とオゾンの大気汚染濃度はそれぞれ26%及び16%減少しました。しかしながら、2010年時点でも、いずれかの物質の環境基準を越えている地域が約40%残っています。大気汚染物質によっては、長期間曝露すると、発がん、短命、免疫・神経・生殖機能の傷害、循環器や呼吸器の障害のリスクが増加する可能性があります。

室内空気では、室内のアレルゲンや刺激物質が喘息の増悪に大きく関わっていると報告しています。米国では2010年において2600万人が喘息に罹患しており、約200万人が救急外来を受診しています。また、2008年では、喘息患者のうち、半数以上の小児、3分の1以上の成人が、喘息が原因で学校や職場を休んでいます。

日本では問題が少ないと考えられていますが、米国では室内のラドンによる肺がんで毎年約2万1千人が死亡していると推算されています。

また、人口の約20%に相当する人々が小中学校の屋内で日中過ごしていますが、屋根の水漏れや空調・換気装置の問題などで、喘息やアレルギー疾患を引き起こす可能性があると指摘しています。

喘息に関連する室内空気汚染の問題については、以下の戦略を掲げています。

2018年までに、家庭や学校で喘息に関連する室内汚染物質への曝露を削減し、そのような対策が実施された人の数を2003年の3百万人から9百万人と3倍に増加する。特に、人種や民族間の不均衡の是正を重点化すると報告しています。

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世界的な​空気汚染問題

WHOは、最新の調査に基づき、2012年に世界中で約700万人が室内と大気の空気汚染が原因で死亡したと発表しました。世界の死亡者の8人に1人に相当する人数と試算しています。

室内と大気の両方の空気汚染が原因で、循環器疾患(脳卒中や虚血性心疾患など)やがんが主な死因とされています。

地域的に深刻なのは南東アジアと西太平洋地域の低中所得国で、2012年に室内空気汚染で330万人、大気汚染で260万人が死亡したと試算しています。

全体の疾患別内訳を以下に示します。

大気汚染による死亡原因
40%:虚血性心疾患
40%:脳卒中
11%:慢性閉塞性肺疾患(COPD)
6%:肺がん
3%:小児における急性下気道感染症

室内空気汚染による死亡原因
34%:脳卒中
26%:虚血性心疾患
22%:慢性閉塞性肺疾患(COPD)
12%:小児における急性下気道感染症
6%:肺がん

室内空気汚染のリスク要因では、家庭での石炭や木炭を用いた調理、バイオマスストーブの使用による死亡数が2012年で430万人になります。また、大気汚染が原因の死亡数は370万人になります。室内と大気の両方が原因となっているものを考慮して、全体で約700万人と推定しています。

室内空気汚染における問題の多くは、発展途上国における燃焼生成物による空気汚染が原因です。WHOでは現在、室内での燃焼の燃焼に関する室内空気質ガイドラインを作成しており、今年中には公表予定となっています。

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世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)による新しい発がん性分類

IARCは、トリクロロエチレンを発がん性分類でグループ1(人に対する発がん性がある)に分類したと発表しました。これまではグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある)でした。IARCがこの決定を行ったのは2012年10月のことですが、その報告書が昨年公表されました。

IARCは、トリクロロエチレンに関する最近の研究を評価した結果、トリクロロエチレンは人で膵臓がんを引き起こす十分な証拠があると判断しました。また、肝臓がんと非ホジキンリンパ腫に関しては明らかな関連性があると判断しましたが、十分な証拠があるとまでは判断されませんでした。

トリクロロエチレンは、世界保健機関欧州事務局が室内空気質ガイドラインを設定しています。日本では、大気環境基準が設定されていますが、室内濃度指針値は策定されていません。世界保健機関欧州事務局の室内空気質ガイドラインでは、すでに発がん物質として扱われており、ガイドラインは10万分の1の発がんリスクで23マイクログラム/立方メートルです。

トリクロロエチレンは、1990年代までは金属部品の脱脂や洗浄、1930年代から1950年代頃まではドライクリーニングに広く使用されていました。印刷や繊維の染色、塗料やインキの製造、染料の除去剤などにも利用されています。

トリクロロエチレンは、塩素消毒された上水、汚染土壌や地下水などにも含まれています。シャワーや入浴時、食器洗い機使用時に発生する蒸気が室内空気汚染の原因の1つとも考えられています。その他、木材着色剤、ニス、潤滑油、接着剤、修正液、ペイント除去剤などの使用も室内空気汚染の要因の1つと考えられています。

トリクロロエチレンと似た物質で、テトラクロロエチレンがありますが、IARCの会合で、この物質に関してはグループ2Aのまま据え置かれました。
 

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ドイツの​室内空気質ガイドライ​ン-2013年のその​後-

2013年3月では、14のグリコールエーテル及びグリコールエステル類のガイドラインを紹介しました。その後、アセトアルデヒド、ナフタレンの改訂値、2-エチルヘキサノール暫定値が公表されました。

2-エチルヘキサノールは、軟質塩ビ樹脂の可塑剤等に使用されているフタル酸エステル類がコンクリートのアルカリ成分と反応して二次生成すると考えられています。

ガイドライン2は健康影響ベース、ガイドライン1は予防のためのガイドラインです。ガイドライン2を越えていたならば、特に、長時間在住する感受性の高い居住者の健康に有害となる濃度と判断されるため、即座に濃度低減のための行動を起こすべきと定義されています。

ガイドライン1は、長期間曝露したとしても健康影響を引き起こす十分な科学的根拠がない値と考えられています。しかし、ガイドライン1を越えていると、健康上望ましくない平均的な曝露濃度よりも高くなるため、予防のために、ガイドライン1とガイドライン2の間の濃度である場合には行動する必要があると定義されています。

従って、ガイドライン1が、長期間曝露による健康影響を未然に防止するうえで目指していくべき室内空気質といえます。

1)アセトアルデヒド(2013年策定)
CAS No 75-07-0
ガイドライン1:0.1 mg/m3
ガイドライン2:1.0 mg/m3

2)ナフタレン(2013年改訂)
CAS No 91-20-3
ガイドライン1:0.01 mg/m3
ガイドライン2:0.03 mg/m3

3)2-エチルヘキサノール、暫定値(2013年策定)
CAS No 104-76-7
ガイドライン1:0.1 mg/m3
ガイドライン2:1.0 mg/m3

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カナダ保​健省の住居用室内空気​質ガイドライン

カナダ保健省は、1987年に住居用の室内空気質ガイドラインを公表して以降、追加や改定を続けてきました。これらのガイドラインは、物質によっては長期と短期に分けられています。

長期:長期間(日、週、月など)の継続的あるいは断続的な曝露による健康影響を防止する
短期:塗料や接着剤などの家庭用品使用時など、高濃度で短時間の曝露による直接的な健康影響を防止する

以下にカナダ保健省がこれまで設定してきた住居用の室内空気質ガイドラインを紹介します。以下のサイトでも確認できます。
http://www.hc-sc.gc.ca/ewh-semt/air/in/res-in/index-eng.php

1)ホルムアルデヒド、2006年制定
長期(8時間):50 μg/m3(40 ppb)
短期(1時間):123 μg/m3(100 ppb)

2)カビ、2007年制定
*数値ではなく維持管理方法が推奨されています
・湿気を管理すること
・カビの増殖を防止するため水害を受けた箇所を念入りに修繕すること
・建築物内で成長している目視で確認できる、あるいは不顕性のカビを完全に除去すること

3)一酸化炭素、2010年制定
長期(24時間):11.5 mg/m3(10 ppm)
短期(1時間):28.6 mg/m3(25 ppm)

4)二酸化窒素、1987年制定
長期(24時間):100 μg/m3(0.05 ppm)
短期(1時間):480 μg/m3(0.25 ppm)

5)オゾン、2010年制定
長期(8時間):40 μg/m3(20 ppb)

6)微小粒子状物質PM2.5、2012年制定
・室内濃度を可能な限り低く維持すべき
・調理中はコンロ上部の換気扇を使用するなど、室内に煙が排出されないようにすること

7)トルエン、2011年制定
長期(24時間):2.3 mg/m3(0.6 ppm)
短期(8時間):15 mg/m3(4.0 ppm)

8)ベンゼン、2013年制定
・室内濃度を可能な限り低く維持すべき

9)ナフタレン、2013年制定
長期(24時間):10 μg/m3(1.9 ppb)
 

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暖炉と室内空気質

近年の南アフリカにおける考古学上の発見によれば、人類は約100万年前から火をうまく使って照明や暖房、調理を行っていました。現在でも世界でみると大部分の人たちが貧困な生活を送っており、調理をするために開放燃焼型の炉を使用しています。しかし燃焼排出物によって健康影響をもたらすこともこれまで指摘されてきました。

ここ数年、欧州では木材燃焼型の暖炉の人気が再燃しています。暖炉は快適で暖かい環境を作り出します。エネルギー価格が増加する時代の中で、木材燃焼型の暖炉は、化石燃料と比べて維持費や資源保全の面でメリットがあると考えられています。木材を燃焼すると二酸化炭素を排出しますが、森林の木は二酸化炭素を吸収しますので、資源循環にもなり得ます。ただし不完全燃焼を起こすと、多かれ少なかれ有害な燃焼生成物を生成します。

最近欧州では、木材燃焼型の暖炉とともに、液体エタノールやゲルを燃料とした燃焼型暖炉の使用が室内用途で増加しています。しかしこれらの燃焼器具でも、開放状態で使用すると燃焼生成物を室内に排出します。

これらの器具メーカーは、エタノールは完全燃焼すると二酸化炭素と水だけしか生成しないと説明しているようで、エタノールが完全燃焼しない可能性については考慮されていないようです。特に、100%純粋なエタノールが燃料として用いられていないことについても考慮されていないようです。実際にエタノール燃料には変性剤が添加剤として含まれているようです。

木材燃焼型の暖炉では粒子状物質、窒素酸化物、一酸化炭素などが、エタノール燃焼型の暖炉では窒素酸化物が多く生成することについて、WHO欧州は指摘しています。

WHO欧州は、室内空気質ガイドラインとして、燃焼生成物に関するガイドラインを現在作成しています。昨年末に公表される予定でしたが、少し遅れているようです。公表されましたら、本トピックで紹介いたします。

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欧州連合(EU)が今年報告した「環境と人の健康」に関する報告書

欧州環境庁(EEA)と欧州委員会共同研究センター(JRC)は、複数の環境要因による複合的な健康リスクの研究が必要だとする報告書「環境と人の健康」を今年の5月に公表しました。この報告書によると、欧州ではこれまでの環境政策が功を奏し、大気や水、食品中の汚染物質が減ったため、一般住民の寿命が延び、健康状態も良くなりました。

しかし近年、依然として大気汚染ががんや心臓疾患、呼吸器疾患の原因になっていることが明らかになり、新しい化学物質の使用量の増加や生活様式の変化による新たな健康リスク(肥満や心血管障害、糖尿病、がんなど生活習慣に起因する健康影響等)が発生していると報告しています。

特に小児、貧困者、高齢者といった社会的弱者が生活の中で接する複数の環境要因の複合的影響を詳しく研究する必要があると報告しています。また、社会的地位の低い人々は住環境も劣悪なことが多く、そのために健康を害するおそれがあるなど、環境条件の不均衡が健康格差につながっている可能性があると指摘しています。その一方で、緑地などの自然環境と触れ合うことは、心身ともに大きなメリットがあることも強調しています。

この報告書は、2005年に公表した報告書のアップデート版で、その後の知見をもとに改訂されたものです。化学物質、大気汚染、室内空気汚染、ラドン、水質、騒音、電磁界、紫外線、ナノテクノロジー、緑地空間と自然環境、気候変動について、それぞれ詳説されています。報告書は以下のサイトで入手できます。

Europe’s environment now healthier – but new risks emerging

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国際がん研究機関が大気汚染と粒子状物質(PM)を発がん性分類1に分類

IARCは、先月10月17日に、大気汚染と粒子状物質(PM)を発がん性分類でグループ1(人に対する発がん性がある)に分類したと発表しました。

最近の疫学研究を評価した結果、大気汚染は人で肺がんと膀胱がんを引き起こす十分な証拠があると判断されました。同様にPMは、肺がんを引き起こす十分な証拠があると判断されました。

大気汚染は、呼吸器系や心疾患などのさまざまな疾患のリスクを増加させることはすでに明らかとなっています。特に近年では、急速に産業が発達している人口の多い諸外国において、大気汚染の深刻な悪化が報告されています。最新のデータによると、世界中での大気汚染による肺がん死亡者数は、2010年で22万3千人と推計されています。

大気汚染の主要な発生源は、交通機関、発電施設、産業活動や農業、家庭での調理や暖房などによる燃焼生成物の排出です。「大気汚染が人に対する発がん性があると判断されたことは、効果的な大気汚染削減策をより一層進めなければならない重要なシグナルを国際社会に示している。」と国際がん研究機関は発表しています。

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大阪府の一園一室木のぬくもり推進モデル事業

大阪府では今年度、内装の木質化を促進することにより、ストレス緩和や室内の快適性を高めるなど、子どもの育成環境の向上を図るとともに、子どものうちから木材に接することで、その良さを体感し、森林の大切さや木材に対する理解を深めることを目的として、一園一室木のぬくもり推進モデル事業を始めました。事業の対象は、大阪府内の民間の保育所です。本事業の実施期間は平成26年2月末までです。

この事業では、大阪府から保育所内の木質化工事(床や壁など)に対して補助金が一定額支出されます。応募のあった保育所の中から審査で承認された保育所に対して補助金が支給されます。

本事業では、木質化による効果について、室内環境(温湿度、化学物質濃度)の実測、職員や保護者へのアンケートが実施されます。これらの調査によって、木質化による効果について、科学的な評価が行われる予定です。

平成25年9月24日に、本事業のキックオフイベントが開催されました。私は、「木材と健康」という題目で講演を行ってまいりました。

本事業の詳細については、ホームページをご覧下さい。

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ドイツでのフタル酸ジ-2-エチルヘキシルによる健康リスク評価結果

DEHPは、塩化ビニル樹脂の可塑剤として利用されており、塩ビ系の床材、壁材、その他の建材、食品包装・容器、医療器具、玩具などに使用されています。生活環境では、室内ダスト、飲食物、大気、水などに幅広く存在しています。DEHPは、人の生殖器官への影響やアレルギーの増悪などが報告されている物質です。

ほとんどの場合、人の健康リスクについては小さいと考えられていますが、小さい子どもの場合は、飲食物の摂取、室内ダストや玩具などのマウシング(口に入れる行為)を通じて高濃度のDEHPに曝露する可能性が指摘されています。

ドイツでは、連邦リスクアセスメント研究所と連邦環境庁がDEHPのリスク評価について、共同で調査を行いました。

DEHPについて、欧州食品安全庁は、50μg/kg体重・日の耐容一日摂取量(TDI)を定めています。ドイツの曝露調査によると、食品由来では、大人と子どものいずれも平均13-21μg/kg体重・日の摂取量でした。しかしながら、数%の人でTDIを超えていました。

食品では、例えば、マヨネーズ、油性のドレッシング、油性の缶詰(魚類など)、脂質のコンビニ食品など、脂肪質の調味料などにDEHPが多く含まれていました。

DEHPの食品関係の規制については、2007年に脂質性食品の包装容器での使用が禁止されています。しかし、DEHPは、油性の物質との親和性が高く、一般環境中に広く分布しており、食品包装容器や食品製造プロセスからDEHPが脂質性の食品中に吸収されたと考えられています。

しかし、特に子どもの場合は、食品以外にも、室内ダスト、生活用品、玩具なども曝露源になります。これらを総合すると、子どものDEHP摂取量は、平均15-44μg/kg体重・日でした。平均値ではTDIを下回っていますが、さらに多くの一部の子どもたちは、TDIを超えていることになります。

従って、DEHPの摂取をできる限り下げる努力が必要です。対策としては、新鮮な食品を摂る頻度を増やす、コンビニ食品の利用頻度を少なくする、偏食を控える、床やカーペットの清掃頻度を増やすなどがあげられています。小児用玩具では、1999年に使用が禁止されましたが、それ以前の古い玩具が曝露源になっている可能性も指摘されています。

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