庭づくり三年目。ある夏の日、庭に出て植物の様子を眺めているとシッポゴケが生えている場所に何か白いものが見える。近づいてみると苔自体が白く脱色されたようになっているではないか。何かしらの病気か、もしくは獣の糞尿か? 原因がわからないのでどうにも対策のしようが無い。とりあえず経過を観察してみることにした。数日後…。変色した部分が確実に大きくなっている! これはまずいと、応急処置として白く変色してしまった箇所をごっそりと取り除く。その苔をルーペで観察してみるとカビのような白い繊維状のものが見える。何かしらの菌が悪さをしている可能性もあると思えたので、園芸用の殺菌剤トップジンMを薬害が出ないよう規定量の半分くらいで一帯に散布した。この夏、それ以降も小さな白い斑点がいくつか出たが大きくなる前に取り除き殺菌するという方法でしのいだ。

よくよく調べてわかったのはこれは白絹病という菌(カビ)が原因の伝染病らしいということ。6~9月にかけ気温が高く湿った環境で出やすい。白い繊維状のものは菌糸で、その周りには粟のような粒の菌核がある。一日に数センチも拡がっていく。対策としては一帯の土壌の消毒、土の入れ替えが良いとあるが、苔に覆われた庭では現実的ではないので、ひとまずは対処療法で行こうと思う。あとは苔庭づくりから数年、苔が成長して密集しすぎているのもいけないのかもしれない。水が溜まりやすい場所で苔がギュウギュウに密集すれば病気にもなりやすいことだろう。蜜にならないようある程度、間引いて他の場所に移植するなど病気にかからないための対策にも気をつけなくては。

この年は山もみじがとても綺麗に紅葉し、苔と落ち葉の鮮やかなコントラストを楽しませてくれた。季節ごとに苔は草花を引き立たせ、あるとき草花は苔を引き立たせる。そんな移ろいを感じさせてくれるのも苔庭の魅力のひとつ。赤く染まったもみじの絨毯を楽しんだあとは光合成が妨げられないように一枚一枚丁寧に落ち葉を拾う。落ち葉の季節は見た目の静かな美しさとは反対に忙しいのである。ちょうどこの頃は雪や雨の北陸の冬の前、秋晴れの時期、気持ちよく庭仕事のできる季節を名残惜しみながら手を動かす。


この冬は近年珍しいほどの雪が降った。降り積もった雪と屋根からの雪、行き場のない旧市街の狭い道路の雪が庭にうず高く積まれ、2月初旬には自分の身長を超えていた。そんな大雪でも2月下旬には日当たりの良いマルバの木の雪根開きが始まった。太陽で木の幹が温められ木の周りから雪が溶けていく春の訪れ。しばらく雪の下になっていた苔たちも姿をあらわした。「ひさしぶり。元気にしてた?」少し顔色が優れないがこれからどんどん日を浴びて元気になっていく。


大谷石を敷いて4年ほど経ち苔や藻がついて雰囲気が出てきたのだけれど、同時にとても滑るようになってしまった。雨上がり濡れているときなど注意をしていても滑るのだから、いつかふとした拍子に滑って頭を打ちそう。自分ならまだしも、とても庭を人に案内するわけにはいかない。そこで思い切って園路を改造することにした。大谷石の代わりに伊勢砂利を敷く。

普通、庭は室内から見ることを基本として、室内から見て庭の奥が山側、上流にあたる。しかし素人が勝手気ままに作っているこの庭は室内から見て一番手前が深山、奥が下流の里山という設定である。北の庭、東西も塞がれており、室内に近くなればなるほど日当たりが悪く育てられる植物が限られる。手前にはシダや控えめな山野草、奥の日当たりのよい場所には華やかな草花を植えてある。それに合わせ伊勢砂利のサイズも手前の上流は8分、5分、下流は3分と変化をつけた。これで雨の日も安心して庭へ出られるようになった。

最近の苔庭づくりは…。菜園として作り放置されていたレイズドベッドを取り壊し、築山とその間を切通して石垣を作り苔庭を広げる予定である。ここは庭で一番日当たりのよい場所(といっても半日しか日は差さないが)で、春がきたら他の場所では日照不足でうまく育ってられなかったウマスギゴケをメインに植えようと思っている。今年は大雪だと噂されていることだし、これからの長い冬は春からの庭づくりについてじっくりと想像を膨らませようと思う。

