苔庭づくり その一

以前少し書いたと思うが苔について興味を持ち学び始めたのは、ほんのつい5年ほど前。横浜から金沢にUターンすることとなり、新居として古い町家を購入したからだ。民家が密集した金沢の旧市街で庭づくりを考えたとき、限られた日照でも育てられる苔や山野草の庭はどうかな?と単純に考えたのがきっかけだった。(その後、苔庭づくりを実践するにつれ日陰だからという安易な考えが間違っていたことを思い知らされるのだけれど…。)

さておき今はこうやって苔のコラムを書かせていただいているけれど、当時はまったく素人。横浜ではベランダガーデニングを楽しんでいた程度で庭や苔のことなど全くといって知識は無かった。そんな私でも楽しみ試行錯誤しながら、ボンヤリとではあるけれど自分なりの苔庭に近づいてきたように思う。そこでこれまで撮り溜めた写真で自分でつくる苔庭の5年を振り返ってみようと思う。

改修前、空き家となって10年以上。庭は荒れていた。
改修前、空き家となって10年以上。庭は荒れていた。
現在の庭。石も苔に覆われつつあり自然な雰囲気に。(2020年7月8日)
現在の庭。石も苔に覆われつつあり自然な雰囲気に。(2020年7月8日)

まず最初に自分では難しいことはあっさり専門家の力を借りて最小限の庭の骨格を作ってもらい、そこをスタート地点とする。予算の都合もあるが、はじめて庭づくり、余白を残しいろいろな植物を育て楽しめればと思ったからだ。庭師さんには自分の手で苔庭にしていきたいこと、苔庭と言っても伝統的な日本庭園ではなく森の中で出会う風景に近づけたいこと、植えてみたい樹木などを相談しておいた。

近くに浅野川が流れるこの土地は地面を掘り返すと大小の石がゴロゴロ山のように出てくる。この土壌だと植物が健康に育たないので表土をすき取って土を入れ替え2箇所に築山に設ける。そこに山モミジやシラカシ、サンシュユ等、自分ひとりでは植えることの出来ないサイズの木を植栽。築山には飛び石、出入り口には沓脱石を入れてもらった。

土を入れ替え、木が植わり準備が整った。ここからは全て自分の手でコツコツ時間をかけてつくっていこう。と思うも、休日のたび近くのホームセンターの園芸コーナーを訪れ、アレもコレもと気になる苗を買ってきては空いた場所に植えてを繰り返したものが下の写真。植えた植物はみるみる成長する。葉は重なり合い地面は暗くなる。ただでさえ周りを建物で囲まれた庭だ。どうなるか?日照不足で苔が育たない。正確には育つ苔の種類が限られてしまう。一般的には嫌われるゼニゴケやジャゴケが繁殖する。そういうことものちのち経験して身をもって学んでいった。

休日のたびに増えていく植物。(2015年8月25日)
休日のたびに増えていく植物。(2015年8月25日)

下草を十分すぎるほど植えてしまった次は苔に進む。
苔に関する本やインターネットで調べたところ苔庭の作り方には大きくわけて二通りの方法があるらしい。

・苔をシート状に貼る。(貼り苔)
・苔のタネを撒いて育てる。(撒き苔)

簡単に説明すると、「貼り苔」はシート状の苔を貼るだけなのですぐに苔庭として楽しめる。環境に合わせた苔選びが重要。環境に合わない苔はそのうち消えてしまう。「撒き苔」は苔を細かく刻んだものを「苔のタネ」として撒いて育てる。均一に育つには2~3年掛かる。いくつかの種類を撒くと環境に適したものが育つので一度育つと丈夫。元からその土地にある苔(地苔)と混ざり作為のないより自然な雰囲気の苔庭になる。

もちろん何も知らないその当時は「すぐに楽しめる貼り苔」一択である。苔はネットでハイゴケを、園芸店でスギゴケを、道端でスナゴケやホソウリゴケを調達し貼ってみた。写真を見返すと日当たりの悪い場所にスナゴケやスギゴケを貼ったり、苔の隣に成長力旺盛で匍匐性(苔を飲み込む。)のハーブなどを植えている。怖いもの知らずである。

築山に苔を貼ってみた。(2015年10月23日)
築山に苔を貼ってみた。(2015年10月23日)

二年目。引き続き貼り苔を進め2つの築山はひとまず苔で覆われたので、築山に挟まれた谷の部分に着手する。雨水は築山から谷に流れ雨水溝へ落ちる。谷はジメジメが道理。歩きやすいように石を敷く計画だ。新聞紙を庭に敷いて、配置やサイズを確認して当たりをつけたところでホームセンターを回って敷石を探すもイメージ通りのものが無く、以前益子で見た大谷石の敷石の雰囲気が良かったことを思い出し取り寄せることに。

地面を水平に突き固めて大谷石を置いていくが、下地調整と大谷石の厚みが30ミリと薄かったせいか乗って歩いているうちにいくつか割れてしまった。割れた隙間に苔が生えてくれればそれも味ということで気にしない。敷石の周りにハイゴケを貼るとぐっと引き締まった印象に。お、これはなかなかじゃないか?と自画自賛していたけど数年後にこの大谷石は撤去されることに。

大谷石の敷石で谷歩きが快適に。(2016年10月2日)
大谷石の敷石で谷歩きが快適に。(2016年10月2日)