苔の花 その二

前回に引き続き、三密を避けて苔の花をめぐりに夕日寺健民自然園へ。(5/15日現在、休園しています。)
金沢市街から15分ほどの場所にある、この自然園は身近な里山の自然環境を保全・活用し、多様な生きものにふれあえる場として、市民に親しまれています。

訪れたこの日は桜も見頃を迎えていて、休憩所や研修所として使用されている茅葺きの古民家のぐるりは、「昔々、おじいさんとおばあさんが…」と続きそうな風景が広がっていました。

古民家は旧鳥越村より移築されました。
古民家は旧鳥越村より移築されました。

里山の麓にあるこの古民家からいろいろなコースの自然観察歩道が続いています。
自然園の近辺には住宅地がありますが、近年熊が出没するらしいので事務所で熊よけの鈴を借りていくことをおすすめします。

暖かい日差しと、カサカサ落ち葉を踏む音が心地よく歩いていると、観察道沿いのロープに目が止まりました。
近づいて見てみると、水を吸ったロープに目立たない小さな苔が生えていました。

ん?ロープに何やら生えています。
ん?ロープに何やら生えています。

ルーペで観察したところサヤゴケのようですが、ロープの捻じれのくぼみにそって生えています。
サヤゴケはふつう樹幹着生で街路樹などにも見られますが、人間が用意したものをうまく利用しています。
吸水性があるロープの上で、より安定し乾きにくい捻じれのくぼみを見つけたんですね。
こんなふうに、何故この場所に生えているのかを推理することも苔観察の楽しさのひとつだと思います。

胞子体は長さ数ミリで柄を鞘状の苞葉が包む様子からサヤゴケとなりました。

市街地の街路樹などにも生え、大気汚染の目安にもなるそうです。
市街地の街路樹などにも生え、大気汚染の目安にもなるそうです。

倒木の上にキノコと一緒に前回見つけた、カラフトキンモウゴケが小さなコロニーを作っていました。
微生物に分解され朽ちていく過程の倒木は、根を張る種子植物などにはまだ住みづらく、苔やキノコにとってはうってつけの環境なのでしょうか。やがて全体に苔が覆われてくると根の張る環境が整い、他の植物も育つようになります。

カラフトキンモウゴケ
日を浴びて気持ちよさそうなカラフトキンモウゴケ。

こちらの切り株にはアオギヌゴケ科の苔だと思うのですが、みごとな花園(?)が広がっていました。
これだけ沢山の胞子体が上がっていると触れてみたくなります。
シャラシャラと掌がくすぐったく、まるで小判の花が咲いているようで長者さまになった気分を味わえます。
むかし話に出てくるような古民家から出発したせいでしょうか?夢のような一夜を過ごし目が覚めると無一文に。というお話でなければいいのですが…。

わんさわんさお祭り状態です。
わんさわんさお祭り状態です。
胞子体の拡大。まだ蓋がついた状態ですが、丸囲みのものだけ蓋が取れています。
胞子体の拡大。まだ蓋がついた状態ですが、丸囲みのものだけ蓋が取れています。

なんとか、無一文にもならず、年老いてお爺さんにもならず、帰ってくることができました。(笑)
春、野山に出かけて苔や植物を見たり、触れ合ったりすると、植物たちの生の力強さに年老いていくどころか、大きな力を思いっきり吸い込んで元気になって帰ってきます。