皆さんは入会林野という言葉を聞いたことがありますか。入会林野とは、集落などの一定地域の住民が昔からの「きまり」や「おきて」などの慣習に従って、木材や薪や炭、家畜の飼料や堆肥を作る草などを採取するために使用している地域の共有林のことです。生活の近代化や地域社会の構造が急速に様変わりしたことにより、入会林野の存在価値は薄れ、その役割を終えようとしています。そんな中で地域資源として森林を見直し、かつての入会林野を再生しようという取り組みが、岐阜県美濃市片知地区ではじまっています。
現代社会においては、電気・ガス・水道の公共公益施設をライフラインと呼んでいます。それがなければ生活が維持できない生活の命綱です。この中の「ガス」はいつ頃から家庭に普及したかご存知でしょうか。初めて日本で家庭用LPガスが使われたのが昭和28年頃と言われています、そして昭和30年代後半に飛躍的に拡大しました。これを「燃料革命」といい、日本の林業の転機になった時代です。筆者の生家は名古屋市ですが、小学生の頃までは薪でお風呂を沸かしていましたし、薪割りの手伝いもしました。ですから今でもヨキで薪を割ることは若い人より上手いと思います。
特に山間地ではお湯を沸かしたり、調理や暖をとったりするのも、すべて地域の山から得られる薪や炭を使っていました。また、「水」も山からの湧き水を使っていました。農業も、化学肥料が無い時代には、落葉や下草を山から採ってきて堆肥を利用していました。ですから、つい50年前までは地域の山林は毎日のように利用されて、人々の生活に無くてはならない存在だったのです。ところが、ガスや水道の普及により、かつて毎日のように通った山に今ではまったく足を踏み入れる必要が無くなり、地域財産として大切に維持管理されてきた入会林野も、ここ数十年間は無関心に放置されてきたのです。
世界に目を向ければ、森林資源に恵まれず、エネルギーや水などの自然資源を得ることが難しい国が多く存在します。経済性や利便性を追い求めてきた近代社会に陰りが見え始めている今日、この日本の恵まれた森林資源を今後どう活かしていくか、また、入会林野の持つ地域住民による森林資源の共同管理の仕組みを再生することは、今後の日本の将来像を考える上でも重要な要素を多く含むものだと考えています。
「美濃市ふくべの森 入会林野再生モデル事業」は、地元の共有林管理組織、市の森林管理委員会や筆者が所属するNPOを中心に、契約により大面積皆伐が計画されていたかつての入会林野を再び地域で活用し、入会林野の再生と森林を地域財産とした地域コミュニティーの再構築をしていこうとする取り組みです。事業地は、岐阜県美濃市の最高峰である瓢ケ岳の山麓に位置する600ヘクタールのスギ・ヒノキの人工林で、その大部分が昭和30年代に50年間の分収造林契約(契約終期に木を伐採して収益を分配する契約)を締結しており、契約を履行すれば一時期に大面積の森林が一本残らず伐採されるという状況になっていました。
そのことに危機感を抱いた地元管理者と地元NPOが、行政にも協力を得ながら協働し、この事業は始まりました。
取り組みの詳細については、次回から少しずつお話をしたいと思います。