2010年11月に農林水産省より発表された「森林・林業再生プラン」を発端に、新しい森林経営計画制度によって施業の集約化・路網(森林内にある道の総称)の整備・機械化による施業の効率化を中心に林業の抜本的改革が進められようとしています。この中には、林業・林産業の再生を、環境ベースとした成長戦略の中に位置づけ、木材の安定供給力の強化を軸とした対策により雇用も含めた地域再生をはかると書かれています。
私が関わる地元の森林でも林道や作業道が開設され、間伐や皆伐による森林の伐採が加速度的に進められています。国は「林業が再生されれば地域が活性化される」という筋書きを描いていますが、果たしてそれだけで地域が再生されるでしょうか? ビジネスが高度化すればするほど、人の雇用は最小限に抑えられますし、地域との関わりは薄くなります。「地域の山に外から人(事業体)がはいり、地域を素通りして山から森林資源と事業収益を外部に運び出している」というのが現実の姿です。
これに対して、私たちは地域の視点で森林の再生を試みようとしています。地域と一体となって「入会林野の再生」をしていこうという取り組みです(vol.6 参照)。国策である「森林・林業再生プラン」が産業としての林業再生を基本とするのに対し、森林を地域財産と捉えて地域の視点から地域コミュニティーの再生を念頭に入れているところが大きく異なります。しかし、両者は相反する関係では無く、「森林・林業再生プラン」ではカバーできない領域を「入会林野の再生」を軸に地域コミュニティーの再生をはかることで、地域の森林管理の仕組みを補完していくことがこのモデル事業の重要な役割となります。
「森林・林業再生プラン」の推進者の一人である元国家戦略室員・梶山恵司氏は、その著書『日本の林業はよみがえる』(日本経済新聞出版社)の中でこのように書いています。
森林・林業再生プランには、地域の視点が欠けているという指摘も少なくない。確かに再生プランは森林・林業の再生であり、山村の再生を取り扱っているものではない。林業は産業の裾野が広く、林業再生は地域経済再生の原動力となりうるが、そのためにはまず、林業そのものの立て直しが前提となる。山村の再生と林業を同時に論じてしまうと、山村の振興には林業が必要だとの議論になり、そのための予算が投入され、結果として林業はいつまでたっても自立できず、山村も疲弊の一途をたどるということになりかねない。 ~中略~ これは環境と林業の問題と共通である。
美濃市片知地区で進められている「入会林野の再生モデル事業」は、まさに「森林・林業再生プラン」に欠けている地域の視点から森林管理を考えていこうという取り組みで、それを地域モデルとして実証していこうとしています。
地域を活性化するには、重層的な事業を生み出す必要があります。それは、事業としては直接にはお金にならないことであったり、都市と地方をつなぐことであったり、地域が直接的に地域の森づくりに関わる仕組みづくりであったりします。地域を動かすには、国策的な大規模プロジェクトよりも、地域の財産管理としての山仕事であったり、地域の森林を活用した副業的林業であったりというような里山活用的林業のほうが地域社会とつながりやすい。大型の林業機械を入れて、高資本、高効率で山から森林資源を出すことを目指す現在の林業は、事業者にとっては魅力的であっても、それが地域再生に直接的につながりにくい側面があるのも事実です。地域の視点で森林を再生するには小規模であっても「地域の人影が見える林業」を目指さなければならないと考えます。
「林業」に先駆けて日本の「農業」が大規模・効率化の道を歩んできていますが、地域コミュニティーが存続している地域には、副業型農業や地域ネットワークに支えられた個人経営的農業が生き残っています。このことからも、森林を地域の財産と捉えて「入会林野の再生」を試みる美濃市片知地区での取り組みは重要な使命を持つと考えています。事業者が行う「産業としての林業」には「金銭的な収益」という見返りが必要となりますが、地域が主体となる「地域財産管理としての林業」には必ずしも金銭的見返りが必要ではないこともあります。それは、森林が持つ公益的機能(水源涵養や災害防止、森林の余暇利用など)を地域が享受することによって、地域の利益が満たされるからです。
人と森林が共存しながら、自分たちの住む地域環境を次世代に受け継いでいこうという発想が、本当の意味での持続可能な森林経営の経営哲学であると考えています。