人も森も健康が第一です。日本の多くの人工林は手入れが行き届かず、不健康な状態であると言われています。そんなわけで森の健康診断をしてみようと、全国に先駆けて2005年6月に愛知県の矢作川流域で森の健康診断の活動が始まりました。詳しくは森の健康診断ポータルサイトを参照してみてください。
矢作川流域で始まったこの活動も、いまや全国に広がりを見せています。その実行委員会の中核を担っているのが「矢作川水系森林ボランティア協議会」(通称:矢森協)のメンバーです。矢森協のメンバーは、50代・60代を中心としたリタイア世代の方々が中心ですが、皆さん元気でフットワークが実に軽い、活動の合言葉「森が元気に、人が元気に」をまさに実践されています。森の健康診断を日本全国に広く普及するために、地域でのイベントの開催、リーダー養成などのさなざまな課題解決へ、適切な人材を派遣する森の健康診断の出前講座を展開しており、要望があれば全国どこでも出かけていきます。
この活動が広がりを見せるには、森を診断するのに最低限必要な知識と技術を、森林ボランティアと呼ばれる人々が身につけていることが必要です。健全な人工林の密度管理などの専門性や技術力は元・信州大学教授の島﨑洋路先生の実践されてきた「森林塾」の講座がベースとなっています。島﨑先生の密度管理を学んだ森林ボランティアの方々が次々とその輪を広げています。最初はイベントの参加者だった方が次にはサポーターへその次には指導者へといった人材の広がりを見せ、科学的・理論的に森林を見ることで「目からウロコ」の新しい発見や気付きと学びの連鎖が生まれています。
森林の調査や森林の診断と言えば、高価な道具も必要なのではと思いますが、森の健康診断で使う道具のほとんどは100円ショップで手に入るものを工夫して使っています。特に木の高さを測る道具にはいろいろと工夫が見られ、10万円以上するプロ用の測定機に匹敵する道具を材料費500円で作ってしまうほどです。皆で知恵を出し合って、手作りで道具を完成させていけるのは、さまざまな経歴や業種を経験されている方が集まる森林ボランティア活動ならではの「人材力」の賜物です。
森の健康診断の活動の全国展開を推進する矢森協代表の丹羽健司さんは、その著書である『森の健康診断~100円グッズで始める市民と研究者の愉快な森林調査』の中で、森の健康診断が数年のうちに全国各地の流域で実施されることを夢想する。ほんの数名の心ある研究者と熱意のある森林ボランティアとの協働さえあれば、それはどこでも可能である。地域の理解や行政・企業などの支援は必ず後からついてくる。キーワードは「愉しくて、少しためになる」ことであると書いています。森の健康診断活動の発足から7年が経過し、その夢想は予想以上に早く現実になっています。
そして、丹羽さんは次なる計画も着々と進めています。健康診断の後には処方が必要であるという思いから、森林と地域に元気を取り戻そうという取り組み「木の駅プロジェクト」が始まっています。
次回はこの「木の駅プロジェクト」の取り組みについて書いてみようと思います。