4月、中国のお盆にあたる「清明の日」という祝日に、中国で最も美しい山と言われている黄山、そして黄山の麓にある集落の宏村を訪れました。
世界遺産にも登録されている黄山は、1つの山ではなく、72の峰のある広い範囲にわたる山岳を指しています。登山口からロープウェイに乗り、山頂を目指し2時間ほどかけて階段を登りました。登山道は整備が行き届いており、初心者でも登山を楽しめます。雨模様の黄山でしたが、霧が晴れると、日本の山の表情とはまた異なる、壮大な風景が広がりました。「黄山」という名は、道教を信仰していた唐時代の皇帝によって、道教の始祖と言われる神話伝説上の皇帝・黄帝から名付けられたそうです。古来より黄山は道教や仏教の修行の地とされ、不老不死の霊薬を飲んだ仙人住むと信じられてきました。また芸術家にも大きな影響を与え、水墨画や詩のモチーフとされてきました。ちなみに日本画家の東山魁夷(1908−1999)も、黄山をモチーフとした《黄山雨過》(1978)という作品を残しています。
黄山市には数多くの明・清時代の民居群が残っています。中でも有名な宏村は世界遺産にも登録されている古村落で、現在は商業化が進み、多くの観光客で賑わっています。ちょうど私が訪れた時期には、採れたての筍や筍の漬物が売っていました。宏村には北宋時代(960−1127)に建てられた祠堂、牌楼、古民居など3600棟がほとんど完全な形で保存されています。その建築様式は「徽州建築」や「徽州派」などと呼ばれており、白い壁が特徴です。この徽州建築が発展した背景には、安徽商人と呼ばれる人々が塩の販売によって莫大な富を築き、故郷の村をより美しく整備したと言われています。宏村の中心には大きな池があり、中国の風水思想と絡めて縁起の良い村とされてきました。
毛豆腐とは、黄山市周辺で食べられる発酵した豆腐を指します。豆腐の表面に毛カビを繁殖させることで、フワフワとした菌糸が盛り上がってくるのが特徴です。毛豆腐は、偶然の失敗から生まれました。もともと、この地域では豆腐の生産量が多く、夏の暑さと高い湿度によって、豆腐のタンパク質が様々なアミノ酸に分解され、毛の生えた豆腐になったそうです。地元の人々は毛豆腐を揚げたり煮込んだりして料理し、黄山市の名物としてどこのレストランでも食べることができます。調理された毛豆腐は外側の皮がしっとりと厚く、中は絹豆腐のようなとろりとした食感になります。ちなみに私は、シンプルにソースを付けていただく揚げたタイプの毛豆腐が好きです。