江西省景徳鎮市

今回は、私が住んでいる江西省・景徳鎮市からお届けします。古くは欧米で磁器のことを「China」と呼んでいたように、中国にはおよそ1万年以上のやきものの歴史があります。景徳鎮は、漢~唐代から続く陶磁器の産地として「磁都」と呼ばれ、国内外からやきものに興味を持つ人びとが訪れる街です。現在、景徳鎮の人口160万人(市街地人口50万人)のうち、約10万人が陶磁器に関わる仕事をしていると言われてます。また自然環境に恵まれた景徳鎮は、森林面積が70%を占め、森にはヒョウも生息しているそうです。ちなみに景徳鎮は、中国で最も発展が遅れている江西省に位置します。確かに、景徳鎮には高層ビルやデパートもなく、道路の整備もままならないのですが、景徳鎮陶磁大学の学生(総数約2万人)をはじめ、観光客やアーティストなど、いつも多くの若者たちの活気で溢れている独特な場所だと感じます。ちょうど今頃の時期は、景徳鎮に短期滞在し、陶芸教室に通ったり自然のなかでのんびり過ごしたりする旅行者にもたくさん出会います。その多くは上海や北京から、都会の生活での疲れを癒すためにやってくるのです。

観て:樊家井(珠山区通站路30)

パートナーのお父さんから「景徳鎮のやきものを送ってほしい」という連絡があり、市街地にある陶磁器の市場を巡りました。なかでも「樊家井(ファンジャジン)」は、地元で有名な陶磁器の工房・店舗がひしめくカオスなエリアで、果てしない数の商品が(ときには無造作に)販売されています。最終的には、お父さんの好みのクラシックな、白磁にコバルトブルーの絵付を加えた「青花磁器」の壺を購入することができました。「青花」は、日本の有田焼や伊万里焼きの染付にも影響を及ぼしたスタイルです。店主によると、この精巧な絵付をたった1日で描いてしまうというからびっくり。景徳鎮の陶磁器生産は古代から分業が基本で、粘土を作る人、轆轤で成型する人、絵付けをする人、焼成する人など、役割が細分化されています。従って、1つのやきものは、とんでもなく高度な技術を持っている職人たちによって作られるという仕組みなのです。

歩いて 陶渓川文創街区(珠山区新厂西路150号)

景徳鎮を初めて訪れた人びとが必ず立ち寄るのは、「陶渓川(タオシチュアン)」という複合施設。広大な陶磁器工場跡地は、陶磁器産業の保存と活用のために立ち上げられた大規模なプロジェクトによって、景徳鎮のランド・マークに生まれ変わりました。敷地内には、景徳鎮陶瓷産業遺跡博物館、陶渓川美術館、陶渓川芸術センター、陶芸・ガラス・木工の工房、演劇場、ギャラリー、陶磁器の販売店やブティック、飲食店や映画館、ホテルなどが入っています。なかでも、景徳鎮陶溪川ハイアットプレイス・陶溪川ホテルは、ひときわ優雅な存在感を放っています。(マクドナルドが1店舗しかない街に、高級ホテルのハイアットがあるのです!)毎週金・土・日曜日の夕方には、地元の若手作家によるマーケットが開催され、陶磁器から、テキスタイル、アクセサリー、漆器、キャンドルなどの商品が並びます。また、月に1度の「陶然集」は、全国から店舗が出店し、ライブやパフォーマンス、軽食やお酒も楽しめる素敵なイベントです。

食べて 湘湖エリアの屋台ごはん(浮梁县湘湖镇陶瓷大学正对面)

日本と同様、中国の大陸の暑さも、かなり厳しい8月。あまりにも暑すぎて料理をする気になれない・・・という某日、屋台料理を買いに出かけました。景徳鎮陶磁大学のキャンパスの向かい側には、毎日たくさんの屋台が並び、夕方になると多くの若者たちで賑わいます。ビーフン、炒飯、串焼き、揚げ物などの屋台が並ぶ風景は、私にとって縁日のような特別感があり、何を食べようかワクワクします。ずっと気になっていた焼き牡蠣は、7個で200円という破格。なかなか怖くて挑戦できなかったところ、友人たちに「お腹を壊したことがない」と言われ、食べてみました。細かく刻んだニンニク・唐辛子・葱をたっぷりのせた小ぶりの牡蠣で、アヒージョのような食べ応えがあります。私のお気に入りは、「氷粉(ビンフェン)」という中国の屋台では必ず見かけるスイーツです。オオセンナリの種を揉んで作られる透明のゼリーに、黒糖のソースと、フルーツ、ゼリー、ナッツ、白玉などがのった、冷たくてぷるぷるした食感と様々なトッピングの食感が楽しめる、夏にぴったりのスイーツです。こちらも1つ200円という学生にも優しい価格。余談ですが、中国では大都市を除き、日本のように趣向を凝らしたスイーツ(ケーキ、プリン、パフェ、アイスクリーム、チョコレートなど)はあまり普及しておらず、「氷粉」のようにシンプルでどこか懐かしいスイーツが主流です。甘いものに目がない私には少し口寂しいですが、それは中国が80年代半ばまで、砂糖を含む全ての食料が配給制だったという社会背景が影響しているのだと思います。