中国

中国に来て早くも2年が経とうとしています。中国で2度目の春節(旧正月)を過ごすために、重慶へと向かう飛行機のなかで今回の原稿を書き始めました。2023年3月に西湖で有名な杭州に到着して以来、紫砂急須の産地・宜興市の丁蜀鎮で3ヶ月、中国を代表する陶磁器産地・景徳鎮で1年半、そして首都・北京で暮らしています。大小さまざまの茶器や食器、派手な装飾で彩られた街並み、多種多様な料理やローカルなレストラン、見るものすべてが新鮮で魅了されたことから始まった『可愛的中国生活』。最終回となる今回は、およそ2年の中国生活のなかで印象に残った「観て、歩いて、食べて」を振り返りたいと思います。

観て

李さんの急須(丁蜀鎮)

田舎の宜興では来る日も来る日も李さんのアトリエで中国茶を飲んで過ごしました。小さなアトリエは李さんの好きなものでいっぱいで、仏壇や太鼓、古い焼物のコレクションに、亀までいます。8歳の頃から仏教を信仰する李さんの急須には、石窟の中に佇むブッダが刻まれています。これらのモチーフのインスピレーションは李さんの「生活、大自然、信仰」の中にあり、「子供の頃から毎日仏像を見ているため無意識的にイメージが浮かんできて、そのイメージを急須の上に再現している」と話していました。急須自体が掌で包めるほどの小さなサイズなので、どれだけ繊細な仕事なのか、と驚きます。また紫砂急須はその特徴である薄さを追求するために、技術を習得するために数年もの修行が必要です。李さんが「急須作りは土のことを大切にしなければいけない。形づくりの段階で少しでも誤魔化してしまったら、焼いたときにその結果が出るという“因果応報”であり、だからいつも誠実でいなければいけない」と言っていたことが印象に残っています。ちなみに、第一回のコラムで紹介したベジタリアンレストランは、菜食主義の李さんと何度も通ったお気に入りのお店の一つです。

李昊臻

李昊臻《刻佛小品》(2022)160ml/230ml

YIJI gallery (重庆市渝北区两江新区汇丰路1号)

重慶の郊外、ブティックや飲食店が入る複合施設・金山意库文创园(ECOOL)の4階には、まるで瞑想空間のように美しくて静かなプライベート・ギャラリーがあります。こちらのギャラリーは予約制で、普段はコレクションを、不定期で展覧会を開催してします。インテリアデザイナーであるオーナーによって運営されており、古今東西の椅子や陶磁器を始め、中国の現代アーティストを中心とする版画、写真、絵画など、さまざまなジャンルの洗練されたコレクションを観ることができます。なかでも印象に残っているのは、中国のアーティスト郭国柱による、再開発で立ち退きを余儀なくされた村人たちの「遺品」をモチーフとした写真シリーズ。少し悲しい物語を想起させる作品と静謐なギャラリーが調和していました。

PRADA荣宅(上海市靜安區陝西北路186號)

上海の「PRADA荣宅」は、建築とアート作品をリッチで優雅なスペースです。瓦色のドームのある3建て庭付きの大邸宅は、かつて上海が租界地となっていた1908年、裕福なドイツ系ユダヤ人の商人によって建てられました。その名残は1階の床のタイルに施されたダビデの星模様にも見ることができます。イオニア式、ドーリア式、コリント式の円柱が並ぶ折衷様式のファサードや、室内のステンドグラスも魅力的です。1918年に中国の実業家である栄宗京氏がこの邸宅を購入し、中国の著名な建築家に改築を依頼しました。公租界地はフランス租界ほどファサードの西洋化に厳しくなかったため、入り口の門に獅子を置くといった中国家屋の要素を取り入れることもできたそうです。そしてイタリアのファッションブランドが栄宅を買収し、中国とイタリアの職人による6年間の修復を経て2017年に「PRADA荣宅」としてオープンしました。現在、展覧会開催時のみオープンしており入場には予約が必要です。私が訪れた時は、ベルギーのアーティスト、ミヒャエル・ボレマンスの展覧会をしていました。会場のスタッフは黒で統一した美しくクラシカルな装いで、建物の雰囲気とマッチしています。

歩いて

丁蜀鎮の次は、陶磁器の都・景徳鎮にて1年半暮らしました。私が住んでいたアトリエ「東雲」には自然保護地区にあり、自然のなかを散歩(あるいは原付でドライブ)しました。道中には、犬や猫、鶏、牛、羊、山羊もいました。去年の5月1日、アトリエに野良の子犬がやってきました。写真は、アトリエに来たときの様子。オーナーの潘さんが飼うことになり、潘さんは「ウーイー(5・1)」と呼び、私たちは「ポポ」と呼んでいたため、最初の数ヶ月間、子犬は2つの名前を持っていました。やがてポポと呼ばれるようになり、すぐにアトリエの人気者になりました。今でも時々、ポポのことや景徳鎮の豊かな自然風景、時代が止まったような小さな集落を懐かしく思い出しています。

野良の子犬
食べて

いつか中国の家庭料理を巡るツアーを企画したいくらい、客人をもてなす熱量がとにかく熱い中国。特に春節の時期となると、同僚や友人、家族や親戚を自宅に招待し、得意の料理を振る舞います。中国の南・重慶では、男性たちがキッチンで料理に励み、その隣の部屋で女性たちが麻雀を楽しんでいる光景がお馴染み。そして今でも忘れられない食事に、旅先の雲南・建水という町で、知り合い伝手に知った地元の方が夕食を招待してくださったのですが、行ってみるとその方は私たちの知り合いを全く覚えていなかったという・・・。ただ、田舎の薪釡で作られた雲南の家庭料理はとても美味しくて、今でもあれは夢だったのかと思う時があります。

中国の家庭料理
中国の家庭料理