コンクリートの割れ目、エアコン室外機の下、歩道の隅…。前回は人の暮らしの中に生きる苔を探してみましたが、今回は少し足を伸ばして里山の苔を覗いてみることにしました。
金沢から車で1時間ほど能登半島の眉丈山。標高は180m、南西から北東に16kmほど連なり、裾野に沿って集落が伸び水田が広がる能登らしい里山です。
山の頂近くには雨の宮古墳群があり、遊歩道も駐車場も整備されているので気軽な苔散策にはちょうどいいです。
この日は季節はずれの暖かさ。数日前に降った雪もほとんど溶けていました。

歩き始めてすぐ、いました!薄暗い北側斜面にシッポゴケを発見。
苔の中では大型で、思わず撫でてみたくなるようなフサっとしたルックス。名前も愛嬌があり覚えやすく(覚えづらいものが多い)、人気ものなのです。
見る目が慣れてくると至る所にコロニーが点在していることがわかります。
写真を撮ってひと撫でふた撫で、柔らかすぎず固すぎず…、柴犬?でしょうか。


遠目からでもよくわかる鮮やかな黄緑色。木の株元にコバノチョウチンゴケが新芽を出していました。
大きくはないですが新芽の季節にひときわ輝き人目をひき、小さな世界からも季節の移ろいを教えてくれます。
図鑑によると4~5月頃に新芽を出すとありますが、雪も降らず暖かい今冬、早く芽吹いたのかもしれません。

森の奥へ進んでいくと一本の大きな木。
幹の右と左で苔の生え方が違います。右は日が当たり高さ50cmほどまで、左は日陰になっていて2mほどまで覆われています。
近寄ってみると左はシノブゴケが、右はそれとは違うもの(調べたけどわからず。)。
一本の木でも日の当たり方、高低による湿度の違い(地面に近いほうが多湿)があり、それぞれ環境に適した苔が育っています。
一見同じような場所でもデリケートに違いを感じ取ってテリトリーを分けているようです。
人間であれば「眺めのいい最上階!」、「日当たり重視」、「土いじりもしたので庭付き一階がいいわ」といった感じなのでしょうか。



眉丈山から車で15分ほど北上して赤倉山にやってきました。
御手洗池という池があり、一体が森林公園として整備されていますが、頻繁に手入れされている様子はなく鬱蒼としています。
人の手で作られたものを自然が飲み込んでゆく過程、苔が朽ちたベンチやテーブルを覆い、そこに種が落ち植物が育つ。そんな生き物の力強さを感じる場所です。

多く人が訪れている気配もなく、地面には当たり一面に苔の絨毯が広がっていました。
おぉ、ヒノキゴケの群生!眉丈山でも見かけましたが、鬱蒼とし池もあり一定の湿度を好むヒノキゴケには最適の場所なのでしょう。大型の苔でここで見たものは8~10cmほどの大きさでした。
別名「イタチのシッポ」と言われていますが、先ほど見かけたシッポゴケよりもさらに柔らかそうです。シッポゴケが「フサっ」ならヒノキゴケは「フワっ」です。
触ってみると見た目の通りフワフワでずっと撫でていたくなります。イタチは撫でたことがないので…例えるなら兎?でしょうか。



ヒノキゴケの群生の近くにはびっしりコムチゴケに覆われた杉の大木が。
コムチゴケは「Y」字のように先端で二股に別れており、その様子が鞭のように見えるからで、頭の「コ」は小さいのコです。
大きさは1~2cmほどですが、綺麗に生え揃った様子は圧巻です。


お天気も手伝い、今回も楽しく沢山の苔や植物に出会えました。
今回の散策で出会った人はゼロ。最初はいつも森との距離を感じるのだけれど、森を歩いて見て触って嗅いで、時間が立つと沢山何かに出会って会話した気分になり心地よく帰ってきます。
