春。野山では待っていましたとばかりに植物は芽吹き、虫たちは冬眠から目覚めたり孵化したり、静かに生を爆発させています。
今年はコロナウイルスの影響でお花見宴会は自粛されていますが、こんな時は一人ひっそりと苔のお花見はいかがでしょうか。
ルーペを持って出かければ、普段とはまた違った興味深い「花」が見えてきます。
4月初旬、金沢市街から車で20分ほどの平栗という集落へ行ってきました。
この辺り一帯は市が「平栗いこいの森」として里山保全しており、コナラや竹林の林床に一面カタクリが見頃を迎えていました。
また、平栗はギフチョウの一大生息地として知られており、カタクリの花が咲くこの季節は蜜を求めてひらひらと気まぐれに舞う様子も見ることができます。
舗装された道路に面する湿った北側斜面にヒョロヒョロとまるで宇宙からやってきたような植物を見つけました。
湿った地面や水辺などに見られるホソバミズゼニゴケの胞子体です。これがいわゆる苔の花というもの。
苔の花とは、繁殖のための胞子を作る器官「胞子体」のことで、多くは春から秋にかけて伸びてきます。
ホソバミズゼニゴケの胞子体は先端の黒っぽい球(朔といいます)に胞子が詰まっていて、熟すと破裂して中身が露わになります。
胞子は雨で流れたり、風に吹かれたりして地面に撒かれ、うまくやったものは新たな生命となります。
それにしても、球のときは何やら怪しく見えますが、破裂するとフワフワの小さな綿毛。その変わり様!笑ってしまいます。
今度は日当たりのよい斜面にコスギゴケの胞子体を見つけました。
胞子体が伸びてからだいぶ時間が経っているようで、萎びているものもちらほら、そろそろお役目御免でしょうか。
先端の白く見える部分には、はじめ被せもの(蓋といいます)がしてあり機が熟すまで胞子を守っているのですが、写真のものは取れてしまった状態です。
苔が生えているのは地面に限ったことではありません。
これまでコンクリートや樹幹の苔を見てきました。
辺りを見回すと、木肌に小さな集まり(コロニー)を見つけました。
近づいてルーペで覗いてみると、帽子を被った小人が顔をのぞかせていました。樹幹上に見られるタチヒダゴケです。
別名コダマゴケとも呼ばれていますが、ホソバミズゼニゴケやコスギゴケとは違って胞子体が上へ伸びていません。
この様子がまるっとした胞子体と合わさり木肌についた玉のようで木玉苔(コダマゴケ)となったのかもしれません。
さてこのタチヒダゴケ、さきほどのコスギゴケには取れて無かった蓋が付いていますね。
とんがり帽のような部分が蓋です。
サンプルを持ち帰って取り出したところ、ポロッと蓋が取れてしまいました。
朔の中には緑色した胞子が詰まっています。
肉眼では米粒のような胞子体ですが、ルーペで観察すると朔や蓋はとても緻密に作られていることがわかります。
訪れたこの日はちょうど桜の花も咲いていました。
桜の木にも何やら見つかりそうです。近づいてみましょう。
今度の胞子体は金色のニットを被っています。毛の生えている部分は帽といい、帽の内側に蓋のついた朔があります。
この苔はカラフトキンモウゴケという名前で、先ほどのタチヒダゴケと同様に樹幹上に見られます。
公園の木などでも見つけることができますので、一本の木にはどんな苔が生えているのか、いくつ種類を見つけられるか、苔の生えている木の種類などをルーペを使ってゆっくり観察してみてください。
苔の花の季節、次回も引き続きお花見に出かけます。