第一回目は、私が小中高と過ごした能登の実家でもある農園の紹介をしたいと思います。全国各地で伝統野菜の復活や地域野菜のブランド化が盛んに行われていますが、そうした活動が能登にもあります。

のとてまり奥能登地方では、原木椎茸(注1)「のと115」の最高級品を「のとてまり」として位置づけ、ブランド化し生産拡大に取り組んでいます。「のと115」とは、奥能登地方で多く栽培されている原木椎茸の品種・菌興115のことで、奥能登の気候に適していて大きく育ちます。「のとてまり」とは、かさの直径が8㎝以上、厚さが3㎝以上、巻き込み(注2)が1㎝以上と定められていて、その厳しさゆえに「のとてまり」と呼べるものは、ほんのわずかしかないのが現状です。

私の実家である牛谷内(うしやち)農園は、世界農業遺産に認定された能登・穴水にあり、海抜50m以上の山の上に位置しています。粘りの強い赤土特有の土壌と、朝晩の温度差で育つ、質の良い栄養価の高い野菜を育てている有機栽培農家です。主に、能登伝統野菜や、能登地域野菜、能登栗、原木椎茸などを育てています。

牛谷内農園では、ハウスと路地とで原木椎茸を栽培していますが、冬の寒さの中でじっくりと育った路地のもののほうが、肉質はきめ細やかで香りもよく美味しく育ちます。原木に菌を入れて収穫するまでには、7~9ケ月ほどかかります。菌を入れた原木はほったらかしとはいかず、高いところから落としたり、塀などに打ち受けたりして衝撃を与え菌を活性化させたり、また日差しが強すぎる時には原木を移動させたりと大変な力仕事です。椎茸の成長を見ながら袋をかぶせ、水分調整をしながらその袋を外したりかぶせたり何度も繰り返して、丸くて大きな「のとてまり」を作っていきます。「子供よりも世話がかかる」と父は笑いますが、その味は折り紙つきで、「肉厚で香りもいいし、焼くのはもちろん鍋にいれればアワビのような食感で、1度食べたら病みつきになる」と、胸を張って言い切る父の顔には、自信とやる気がみなぎっていました。

原木に菌を打ち込んで栽培しています

原木に菌を打ち込んで栽培しています

厳しい寒さの中でも、美味しく育ちます

寒さ厳しい中、美味しく育ちます

ちなみに、この「のとてまり」、2012年12月の初セリでは1箱(5枚入り)16000円の高値が付いたほどの高級椎茸ですが、生産量が増えれば価格も落ち着き、みなさんの口に入る機会が増えればいいな~と一消費者としては願わずにはいられません。生産者にしてみれば、高値のほうがいいのですが。(笑)

注1:椎茸の栽培方法は2つあります。原木に菌を打ち込んで栽培する方法と、菌床という人工的に作った培地に種苗を植え付けて栽培する方法。原木椎茸は自然に近い形で栽培するので風味豊か。

注2:のとてまりは、手毬のように丸丸している形が特徴です。椎茸の傘が内側にどれだけ巻き込んでいるかがポイント。

オイシイモノ紀行 山根ひとみ

石川県鳳珠郡穴水町鹿波ヲ部1-1
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山根ひとみ
石川県金沢市在住。
日本フードアナリスト協会東京本部・北信越支部広報委員。
実家が農家ということもあり、農家さんの思いを形にしたいと、6次産業化や農商工連携アドバイザーを務める。フードアナリストとして石川の食を発信中。趣味は食べ歩き。