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江戸時代に建てられた店蔵や明治26年の大火の後に建てられた蔵造り商家の町並がそのまま残る川越市幸町に、当時の煙草卸商の蔵造りの商家が、蔵造り資料館として公開されている。資料館には、江戸時代から明治にかけての土蔵の材料や構法模型などが展示されている。川越の土蔵は江戸の日本橋の店蔵にならって造られたといわれ、いまはなき、江戸の店蔵の並ぶ町並の面影を眼前にみることが出来る。

①伝統的建造物群保存地区に指定された川越の土蔵の町並
①伝統的建造物群保存地区に指定された川越の土蔵の町並

小林澄夫さんに聞く

Q 土蔵装飾について詳しく教えてください。
土蔵には、妻壁や軒下の鉢巻きとか戸前の上のカブト桁とか人目に触れる場所に漆喰で装飾がほどこされている。妻壁の家紋や屋号のほか、“水”とか“龍”の文字。波に兎の鏝絵、波や雲のレリーフ等、水に関する図柄は火伏せや火除けのまじないである。こうした蔵飾りは土蔵左官の腕のふるい所であり、職人の遺した手形といってよい。
Q 耐火性能はどれくらいあるものなのでしょうか?
土蔵の土壁の厚さは、ふつう25cmから30cmあり、それが幾層にもわたって乾かし乾かし塗り重ねられている。いわば土蔵の内部は土中の穴蔵といってよい。また、火災時の外部の熱風を防ぐために開口部も土の扉で、観音扉の幾重もの掛け子の重ねによって、内と外を密封するよう工夫されている。土蔵は住宅民家地に火事の多い日本の気候風土が生んだ、すぐれた防耐火建築といってよい。

■土蔵
土蔵という言葉もいまでは死語になりつつあるが、蔵造りは童謡の黄金虫の唄が、金蔵たてた 蔵建てた、と唄うように持主のステイタスシンボルであった。時に土蔵は、防耐火建築という機能を越えて、職人の手間と美意識の限りを尽くした豪華な土蔵が造られた。その代表は人の住む座敷蔵や店蔵である。西の左官は茶室数寄屋の土壁にその技術と美の粋をきわめ、東の左官は土蔵造りの漆喰仕上げの技術や細工に極限をきわめたといえようか。

 

座敷蔵の戸前(トマエ)の観音扉。黒漆喰の磨き仕上げに白い面取りの漆喰仕事の最高峰(秋田羽後町)

座敷蔵の戸前(トマエ)の観音扉。黒漆喰の磨き仕上げに白い面取りの漆喰仕事の最高峰(秋田羽後町)

岩手花泉の唐獅子土蔵。気の遠くなるような左官仕事の極地

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信州安曇野の店蔵。二階の窓の観音扉が手先合わせになっている。開いた扉が左右で重ね合わせになるように細工されている。

信州安曇野の店蔵。二階の窓の観音扉が手先合わせになっている。開いた扉が左右で重ね合わせになるように細工されている。

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