キャベツの結球

梅雨入りした。

この時季は、キャベツの収穫期だ。タネは3月の第1週目に蒔いた。約10日後に発芽し、保温トンネルで育苗した苗は、GW明けに定植する。その間、順調に育つように土を作りこむ。毎年、定植のタイミングでモンシロチョウの食害を防ぐネットを張る。でも今年は、思い切ってそれをすることを辞めてみた。

定植した苗には、しばらくするとどこからともなくモンシロチョウがハタハタと飛んでくる。そして、夥しい数の卵を産みつける。しかし産みつける数に比べ、孵化した幼虫が成虫まで羽化する生存率はとても低い。といっても農家にとっては脅威に変わりないのだが。寄生蜂に侵されるもの。鳥に啄まれるもの。ウイルスや病気で葉の上で褐色に干からびたもの。特に5月に入ると、たくさんのアシナガバチが飛来し、格好の餌食となる。彼らはホバリングしながら青虫を探索し、中にはキャベツの葉の間に潜り込んでまで青虫を貪欲に捕食する。そして、梅雨。まとまった降水で溺死するもの……よくよく観察すると、蝶にとっては天敵だらけの受難続きだ。この季節、9割以上が成虫になるまでに死滅しているらしいと聞いたことがある。

だから、ぼくは寄生蜂やアシナガバチが現れるタイミングと長雨の予測を念頭におきながら、収穫時から逆算してタネを蒔く。多少葉っぱを食害されても巻ききれるほどの地力がある土つくりを念入りに行う。農薬を使わない野菜栽培は、天候を含め、いろんな事象を鑑みながら栽培の適期を見極める。植物にとって過剰なストレスがかからない環境が整えられるかが鍵だと思っている。

アシナガバチが幼虫を捕食しているところを観察していると、つい最近の家族に起こった出来事が気になりだしてしまう。 先日、5歳の息子が自閉症スペクトラムという診断を受けた。日常生活のことあるごとに癇癪をおこし、とうとう保育園は不登園になった。毎朝、暴れる息子を押さえつけるので妻は身体を故障し、気も心も疲弊してきたので小児科に相談した。担当医曰く、この年齢に差し掛かると社会性を認識してくる。ただそれは、大人や教科書でいちいち教えられるものでもなく、人間関係の折り合いの中で緩やかに身につけるものなのだという。

確かに、息子が保育園に行かない理由として、みんな好き勝手に行動してその度にあちこちで喧嘩になるのが苦痛だと妻に話していた。息子が自分で思うルールを守っていても、他の子はお構いなしで干渉してくる。本来なら、適当にいい加減に対応しながら自分の居場所を確保してゆくものが、息子はそれが出来ない。ダメなものはダメ、それでも彼は彼なりにその場では我慢して、家に帰ると癇癪という形で自分を解放しているのだろうか。

主治医の診断を受けて息子の状況が判って、妻とぼくはお互いにほっとした。そして、これまで揺らいでいた気持ちを整理し、保育士と相談しながら療育施設にお世話になることにし、彼のための環境を整えることにした。

ところで今年の梅雨は、去年より22日遅い6月21日だった。予想外の小雨のせいで、キャベツが巻き始める直前に青虫が大発生してしまった。葉は穴だらけ、すけすけになってしまったが、それでも結球しようとする。

野菜も子育ても、解っているようでなかなかうまくいかない。キャベツの姿を見るたびに、「そんなに力むなよ、オレたちは勝手にやれるから」と言われているようで、余計に親としてなにをすべきなのか考え込んでしまう。