見ると十尺はあろうかという、大きな牙がぶら下がっているではありませんか。これには鬼たちもびっくりしてしまいました。
「ややや、これはでかい・・・」
「大きすぎて、これが牙だとは気がつかなんだ。確かにこんな大きな牙は見たことがない。」
「まったく、この牙にくらべたら俺たちの牙なんぞ楊枝みたいなものだ・・・」
それまで「俺が、俺が」といっていた鬼たちもその牙を見たとたん、あまりの大きさに見とれてしまい、しばらくは声も出ませんでした。
しかし感心していた鬼の一匹が
「まてよ、俺は昔、鬼喰いの鬼がいるという話を聞いたことがあるぞ、まさかこれはその鬼の牙ではあるまいな。」とこわごわいいました。
その話を聞いて
「確かに、こんなでかい牙を持った鬼ならば 俺たちだって、ひとのみだ!」
とガタガタ震えだした鬼もいます。
そこで別の鬼が村人に
「おい、まさか鬼喰いの鬼にも、牙くらべの知らせを出したのではあるまいな。」
とたずねました。
村人はおどおどしながら
「へい、それがその・・・」
と申し訳なさそうに答えました。
「なに、出したのか!」
とそういっているそばから
「ドスン ドスン。」と大きな足音がひびいて来るではありませんか。
鬼たちは震え上がってしまいました。もう牙くらべどころではありません。
「大変だ。早く逃げろ!」
と口々に叫び、蜘蛛の子を散らすように逃げ出しました。谷にかかっている自分の牙など見向きもしません。押し合いへしあいわき目もふらず、一目散に逃げていきました。赤鬼、青鬼、黒鬼の三匹もほかの鬼にまぎれてどこかへ行ってしまいました。