次の日、さっそく村人たちは
「このたび鬼の牙くらべを行います。牙自慢の鬼のみな様、どうぞお集まりください。」
と国中に御触れをだしました。その話を聞いて三匹の鬼たちも、ようやく喧嘩をやめました。
御触れを出してしばらくすると、北から南から西から東から、野を越え山を越え海を越え、何百いや何千という牙自慢の鬼たちが、ぞくぞくと大福山のふもとに集まってきました。
そうして牙くらべの朝、梅が瀬は国中から集まった鬼たちで大賑わいです。
渓流沿いにはいたるところに牙が掛けられ、その見事なことといったらありません。どの牙もきれいに磨かれ、きらきらと光り輝いています。
その牙を前にして村の長老が
「えー鬼のみなさま、遠いところからよくお越しくださいました。今日は、どなたの牙が一番大きくてりっぱな牙なのかを決めたいと思います。どうぞ心ゆくまでご覧ください。」
といいました。
さあいよいよ牙くらべの始まりです。ずらりと並んだ牙を前にして、鬼たちはわいわいがやがや話に夢中になっています。
「ほーこの牙はでかいなぁ、あっちの牙もりっぱなもんだ。」
「とはいえ、俺さまの牙にはかなわんがな。」
などという話し声が、谷のあちらこちらから聞こえてきます。はじめはどの鬼たちも仲良く、牙くらべもお祭りのような、それはそれは楽しげな雰囲気でした。しかしときがたつにつれ「俺の方が、俺の方が。」という声がしだいに大きくなり、いたるところで小競り合いが始まりました。そしてついに何千という鬼たちがいっせいに大喧嘩を始めそうになったそのときです。
「ひゃ~でけ~!」
と大声をあげた鬼がいます。