さっそく黒鬼は、赤鬼と青鬼が取っ組み合いの喧嘩をしているところに出かけていき、声をかけました。
「おい、お前ら、牙の大きさで喧嘩をしていると聞いたぞ。誰のが一番大きくて、りっぱな牙なのか、俺が決めてやる。」
そういって二匹の間に割ってはいりました。それなら話が早いと、赤鬼も青鬼も喜んで黒鬼の言うことを素直に聞きました。
黒鬼は二匹の鬼を並べて、口を大きく開かせると
「ふむ、ふむ、ほー」
「なるほど、なるほど・・・」
としばらくの間、二匹の鬼の牙を横からのぞいたり握ってみたり、下から見上げたりしていましたが、ようやく
「よし、わかった!」
といいました。赤鬼も青鬼もうれしそうな顔をして
「おおそうか、わかったか。で、どちらが大きくて立派な牙だった。」
「じらさんで早く教えてくれ。」
といって黒鬼に詰め寄りました。
黒鬼はしばらく腕を組んで黙っていましたが
「確かにお前らの牙はどちらも立派だ。」
と言いました。そういわれて、赤鬼も青鬼もうれしそうに、うんうんとうなずきます。
「しかし残念だが・・・」
「俺の牙のほうが、もっとでかい!」
黒鬼は目をつぶったまま、満足げにきっぱりいいました。
この言葉に、赤鬼も青鬼も口をあんぐりあけて、ポカンとしてしまいました。そして次の瞬間
「な~に~!」
二匹の鬼は黒鬼に飛びかかりました。
こうして今度は、三匹の鬼が取っ組み合いの喧嘩を始めたからさあ大変です。山は蹴散らすは、川は踏んづけるは、そのすごさといったらありません。おかげで、そびえるほど高かった上総の山々は、丘のように低くなりまっすぐに流れていた養老川や小櫃川も、蛇のように曲がってしまいました。