これには村人たちも、ほとほと困ってしまいました。せっかく赤鬼と青鬼の喧嘩を止めさせようと黒鬼に頼んだのに、黒鬼までもが一緒になって喧嘩を始めるとは……
村人たちは、また集まって相談をしました。けれども今度ばかりは、どうにもいい方法が見つかりません。
「かっ、こっがしょうがあんもんか……」
「あじったんもおいねや……」
いくら話し合っても、出てくるのはため息ばかりです。みんな肩を落とし、黙り込んでしまいました。そうしてしばらくたった時、喜一という若者が
「いっそのこと国中の鬼を集めて、牙くらべをすべぇ。
とぽつりといいました。それを聞いた村人たちはびっくりしてしまいました。
喜一は村の中でも一番無口でおとなしい若者です。普段あまり話をしたことのない喜一が、何を言い出すのかと思えば、全国から鬼という鬼を集めて、どの鬼の牙が一番大きくてりっぱなのかを決めようというのです。
「に、にっしゃ、あにそいてっだよ。そんなことがぁできるわけねっぺよ。」
「そらぁ、とてんおいねや。おいね、おいね。」
村人たちは大反対です。第一、三匹の鬼があばれただけで山は低くなり、川も曲がってしまったのです。そのうえ国中から鬼が集まって喧嘩でもされたら、それこそ大変なことになります。賛成するものなど、誰もいませんでした。しかし喜一はひとりニコニコしながら「あんとんねぇさ。」といって笑っています。
「あんとんねぇ」といわれても、村人たちは納得するわけがありません。そこで喜一は声を低くして、村人たちに計画を話しはじめました。喜一の話を聞くうちに、最初は反対していた村人たちも、しだいに顔色が明るくなり、話しを聞き終わるころには
「そんだっば鬼の牙くらべをやってんべや。」
「おお!やんべや、やんべや。」
と口々に言いました。
鬼の牙が抜け代わる冬に、たくさんの牙が掛けられる谷があるというので、梅が瀬がよいということになりました。