昔々、まだ上総の山々が高くそびえ、養老川や小櫃川もまっすぐに流れていたころのお話です。
大福山のふもとに、二匹の鬼が住んでおりました。鬼たちはとても仲がよく、何をするにも一緒でした。ところがある日、赤鬼が歯に詰まった骨を「ちっちっちっ」と取っていると、それを見ていた青鬼が
「最近お前の牙は短くなったような気がするぞ、硬いものの食いすぎではないか。」
といってからかいました。赤鬼も負けずに
「お前の牙こそ、この頃少し細くなったような気がするぞ、ちゃんとうまいものを食っているのか。」
といってニヤニヤしました。
最初は冗談を言い合っているだけでしたが、しまいには
「俺のほうが立派な牙だ。」
と言い争いになりました。二匹の鬼は口をあけて、お互いの牙をにぎったり、ものさしで計ってみたりといろいろしましたが、どうしても自分の牙のほうが立派だといってゆずりません。
とうとう鬼たちは、取っ組み合いの喧嘩を始めました。しかし喧嘩といってもなみの喧嘩ではありません。木は倒すは、田畑は荒らすは、村人たちにとって、こんな迷惑なことはありません。
そこでなんとか喧嘩を止めさせようと、村人たちは集まって相談をしましたが、なかなかいい考えが浮かびません。
「でんがさぁ、人間のおらほが、鬼の喧嘩の仲裁なんぞ、できるわけねっぺよ。いぇ~どしたもんかさぁ・・・」
村人たちは困ってしまいました。するとひとりの老人が
「だっば鬼のことは鬼に任せんべや。」
といいました。
三つ山の向こうに住んでいる久留里の黒鬼に、なんとかしてもらおうというのです。それはいい考えだと、さっそく村人たちは黒鬼のところに行き、事情を話しました。
「ふーん、赤鬼と青鬼のやつ、近頃顔を見せぬと思ったら、そんなくだらんことで喧嘩をしておったか、まったくどうしようもないやつらだ。お前らの話はよーくわかった俺さまにまかせておけ。」
と黒鬼はこころよく引き受けてくれました。村人たちは何度も何度もお礼を言って帰っていきました。