滋賀県編 その四

琵琶湖の水面のさざ波と、水鳥たちの羽音を聴きながら旅する滋賀県。
誰そ彼(たそがれ)が夜に変わる前に急ぎ次の目的地へと向かいます。

彦根市日夏町にある「よろず淡日(あわひ)」は疋田実(ひきた・みのる)さんと奥様で画家の美智代(みちよ)さんが始めたお店。実さんの曽祖父(大正生まれ)の代からのよろず屋だった家を手直しし、現代のよろず屋としてよみがえらせたという、まるでタイムスリップしたような、不思議な場所でした。

疋田さんが自らの足で集められたのは昔ながらの家財道具、ガラス、陶器、木工品、アフリカの仮面や、金属彫刻、駄菓子やノートや文房具、おもちゃも昔のよろず屋の名残でしょうか。駄菓子屋に一度でも行かれたことのある人にとっては、懐かしくて堪らないものばかり。

ギャラリーでは、「具体美術」のメンバーであった堀尾貞治(ほりお・さだはる)さんの追悼展が行われていました。作家本人とも親交があったそうで、木戸で囲まれた土間空間に、作家の墨書きの言葉が存在感を際立たせていました。

疋田さんか生まれた昭和35年の大阪の街は戦後の経済成長の渦の中で、エネルギーに溢れており、子どもの目には、あらゆるものが新鮮で驚きの日々でした。
疋田さんの宝探しの原点。先祖から残るこの場所は山、川、湖と自然がすぐそばにある。何かを始める場所は「ここがええな」と感じました。
奥さまの美智代さんとこつこつ整理や改修をしながら、開店したのは2015年のこと。

地元に根付いた店を目指し、あらゆる世代の心にひびくものを選んでいます。
「人が勝手に集まって、よいつながりが生まれていくようなところであれば申し分ない。気楽に立ち寄れ、面白味があり、自分も生きてくる。そんなよろず屋があったらよいと思う」

取材を終えた頃にはもうあたりは真っ暗。
あれ?私たちは今どこにいるのだろう、どこか異次元に紛れてしまったのかな? 
ガタガタと木戸を開けてよろず淡日を出ると夜空にたくさんの星が瞬いておりました。
お二人に見送られ、私たちは次の目的地へと向かいました。
まぼろしのようにぼんやりと佇む「よろず淡日」が車窓からゆっくり遠ざかり、異次元から現実に戻る間はなぜか無言になる私たちなのでした。