滋賀県編 その二

世界に20数個しかないという古代湖の中でも三番目に古いと言われる琵琶湖。近江の旅の道中は傍らに琵琶湖がいつもやわらかな水をたたえており、なにか、見守られているように感じます。
金沢を出発し、福井経由で近江八幡市まで一直線。料理・魚石にて滋賀県の郷土料理「鮒鮓」を堪能した私たちは、新たな出会いを求めて彦根に移動しました。
発酵つながりで今度は糀(米麹)を製造している「ハッピー太郎醸造所」をお訪ねすることに。出迎えて下さったのは手拭いを頭に巻いた池島幸太郎さん。強くて優しい、福顔の笑顔でした。

大学時代に「蕎麦呑み」にハマってしまった池島さんは、日本酒の奥深さに魅了され、醸造と農業を学びたいと思うようになりました。大学を卒業後から12年の間に3つの酒蔵で修業。最後に務めた酒蔵で自分のオリジナルのレシピによる日本酒をリリース。ウィーンにも輸出されたほどの腕前に。
しかし日本国内で酒蔵を持つことの難しさを知った池島さん。地元彦根にある糀屋が高齢を理由に廃業することを知り、「それならば自分が町の糀屋になろう」と決心。滋賀県彦根市に築100年の古民家と出会い、2017年1月「ハッピー太郎醸造所」を創業することになりました。



作っている製品は、大きく分けて「糀」「味噌」「鮒鮓」の3種類。
糀は滋賀県産の自然農法米と減農法米から造った二種。糀菌は京都の種麹屋「菱六」の数ある菌株から選定。「糀作りは身体で感じるもの。糀菌が伸び伸びと気持ちよく生育するよう、糀菌の声と動きに寄り添う。糀を育て、自分の舌で香味を確認し『完熟で収穫』するイメージです」

味噌は滋賀県産の無農薬大豆と、自家製のハッピー糀、塩は長崎五島列島の海水を鉄釜と薪で焚き上げた「手塩」を使用。安全、安心な材料を使って手作り味噌を自ら仕込む「手前味噌の会」も毎年10月末から4月、週2回の頻度で開催し、味噌づくりを体験したい人たちが予約され、定員8名のところ毎回大人気だそうです。

また、通信販売で糀はもちろんのこと、甘酒や、お酢、味噌などを販売。食のイベントや朝市にも出店。夏に鮒ずしの飯(いい)や味噌を使った自家製発酵&スパイスカレーを製造してみたところ大好評だったとか。また地域住民と一緒に滋賀県北部・木之本町で開催した「オカンのツボ『木之本暮らしの中の発酵』展」では発酵監督として企画をコーディネートしました。
コルクを貼った木の香りのする室(むろ)での糀作りは池島さんの精神が最も落ち着くひと時。米作りの農家から、糀や味噌の製造、そして販売。すべての過程に関わった人たちの顔が見えること。「発酵食品で、つながりを取り戻したい」という信念で、日々糀作りに勤しんでいる池島さんの糀は、一粒一粒が厳かに艶々と輝いておりました。

販売されている甘酒を一袋持ち帰り、お湯を少し入れて飲んでみました。ほわあっと口に広がる芳醇な甘さと香り。今まで経験したことのない甘酒でした。滋賀がもたらす恵みの味をここでも発見し、嬉しくなりました。