長野県編 その一

飯田屋の「あめせんべい」(左)と「まめいた」(右)

 

松本には飴市がある。戦国時代に上杉謙信が敵将である武田信玄に「義塩」(ぎしお)を送ったことを記念した「塩市」がいつの間にか「飴市」に。松本には100年以上続く老舗が3店舗もあります。


長野県松本市、飯田屋飴店はその老舗のうちのひとつ。店主・伊藤雅之さんは、その9代目。小さい時から飴を作る祖父や父、職人の間近で育ち、ごくごく自然に飴づくりの手伝いをするようになりました。

「家業を継ぐことには抵抗がなかった。作るのが好きだったんですね」。
聞くところによると初代の伊藤伊佐治さんは元武士。お上の改易(身分を平民に落とされ、屋敷・家禄を没収されること)によって職を失い、武士のプライドを捨て酒屋を始め、その後飴屋になったということ。創業は寛政8年(1796年)、それから200年以上続く老舗中の老舗です。

「創業者は場所や道具を揃え、顧客とのつながりを築いてきた。そのことを考えると本当にたいへんだったと思います。ゼロからはじめた初代を誇りに思います」と伊藤さん。


飯田屋さんの定番の「あめせんべい」は飴が熱いうちに手でこねて長く伸ばし、職人二人で息を合わせて手早く交互に切り返して細工を施し、絹糸のようになった飴を板状にして切ったもの。乳白色のウエハースのような軽やかさ。それは製造工程でたっぷり空気を含んでいるからなのです。

手でパキッと折って、食べてみました。コクのある甘さが口の中でほろほろ溶けていきます。精製前の沖縄の黒糖を使用したプレーン、粟国の手塩・徳島和三盆・珈琲の4種類の味が揃っています。そのほか昔ながらのニッキやハッカの飴、福飴。また飴屋3社で協力し企画した商品、信州りんごを使用した、「松本三ツ星」など、豊富な品揃え。ネットでの販売も行っています。
また、飴職人さんが《おっとぼけ美術館》という、週末だけ開ける小さな美術館の館長さんでもあるのです。そちらの商品である道祖面も店内で販売。「ものづくりの者同志、助け合っています」と伊藤さん。

真摯で明るい職人たちが支え合って、飯田屋飴店を切り盛りし、ものづくりの街松本で老舗の歴史を刻んでいます。