石川県編 その七

世界が目まぐるしく変化して、幸せの意味について考える出来事が起こっています。

季節がめぐり春が来たことが何か奇跡のように思える2022年。丁度5年前の今頃、私は2万冊以上本のある家から逃れるため次の場所を探していました。小さな金沢町家が見つかってほんの僅かな家財道具を運び入れました。これからの暮らしの不安が私を支配していました。眠れない日々を過ごし、途方に暮れていたのですが、死から少しでも遠い場所へ、と勇気を振り絞り一歩を踏み出さなければなりません。

心身のバランスのためには規則正しい生活を、と朝に散歩に出る事にしました。新しい場所に来るまでには気が付かなかったのですが、近くに散歩には最適な場所を見つけました。

金沢市民芸術村は元大和紡績工場だった所、市民が音楽、演劇、美術の制作や発表の場として使えるよう、赤レンガの風情を残しながら改修し、1996年にオープンしました。今では年間20万人が使う施設となり、広大な公園は市民の憩いの場となっています。

家を出て芸術村まで歩き、公園を2周すると5千歩ほど歩く事になります。何より楽しみなのは手入れの行き届いた木々が季節ごとにそれぞれの面持ちで私たちを迎えてくれることです。トチノキ、クスノキ、モモ、サクラ、ボタン、ヒイラギ、キョウチクトウ、サンシュユ、アセビ、ツバキ、アジサイ。季節が巡り冬が来ても春にまた芽吹きだして、色とりどりの花を健気に咲かせます。鳥たちはやっと訪れた春を祝い謳っています。

今遠い国で起こっている争いの愚かさ、ニュースを聞くだけでも辛くなるこの春。それでも桜のつぼみが膨らんで、いつもと変わらぬ準備ができているのを見るとホッと胸が熱くなります。自分が自分らしく、すべてが疑いもなく私であること、私の自然に素直に従うことが幸せ。花や鳥たちに教えられています。

春よありがとう、ありがとう。