岐阜県編 その三

やまねこドーナツの揚げたてほくほくを頬張りました。サクサクとした歯ざわり、郡上八幡の糀を使ったまろやかな甘さが口の中にひろがります。

さて、岐阜県郡上八幡を後に、次の目的地は世界遺産に指定されている岐阜県飛騨白川郷、合掌造集落です。合掌造りとは木の梁を山型に組み合わせて建てられた日本独自の建築様式。外から見たその形が、まるで掌を合わせたように見えることから「合掌」造りと呼ぶようになったとか。日本の原風景といわれる大小100棟余りの家が残り、今でもそこで人々の生活が営まれているのです。

1995年には五箇山(富山県)と共に白川郷・五箇山の合掌造り集落として、ユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されました。建物や景観だけではなく、屋根の葺き替えなど、地域に根付く住民同士の相互で協力しあう営みが高い評価を受けたということ。

しかし、それによって日本の農山村文化を継承してきた白川郷の合掌造り民家や風景は、一挙に観光スポットに。人口1900人の集落に年間100万人を越える観光客が押し寄せてしまうことになってしまいました。金沢に住む私が感じていた、新幹線が開通したすぐあとの町の変化もそのようなものでした。観光を産業としていく場所には常にこのジレンマがつきまといます。新型コロナの影響がこの白川郷ではどうなのだろうか、と少し気になりました。

京都に生まれの友人が、「観光客が減って、京都が私たちのところにやっと戻ってきた」と言っていました。いずこの観光地も、そこに住まう人びとの思いは複雑に揺れ動くものかも知れません。

山々に囲まれ緑鮮やかなこの秋の季節。集落を見渡す丘の上からは、三角の合掌造りの屋根が並んでいました。夏は清風が吹き抜け涼しく過ごしやすく、冬は一面の雪に覆われるこの静かな瞑想の村。訪れた時は、立葵(タチアオイ)、菖蒲(アヤメ)、そして野ばらが、可憐に咲いておりました。ここでは都会にはない穏やかな時間が流れているようです。

岐阜の旅もこれで最後になりました。「遺伝子の風景」はこれまで三重県、石川県、福井県、岐阜県、長野県、滋賀県、京都府、福島県、愛知県、静岡県、徳島県、高知県、と12県をめぐっています。まだまだ見たことのない場所、初めての人々との遺伝子の出会いがあると願っています。私の旅はまだまだ続きます。