京都編 その四

京都大原はベニシア・スタンレー・スミスさんの家に訪れた。季節は初秋。ベニシアさんの庭ではシュウカイドウ、ミズヒキ、シュウメイギクが今を盛りと咲いている。

「庭の花々はいつも私にとって友達みたいなもの」とベニシアさん。草花はいつもたくましい。彼らなりのバイオリズムでもって敏感に周りの空気を察知し葉は均等に太陽を受けるように整い、花は環境に応じて咲き具合を調整し自然界でおのおのが調和していく術を持っている。

「目が見えなくなってくるのは不安です。最初はね、ちょっと辛かったのだけどよく考えたらそれでも私にできることがあるとわかったんです」とベニシアさん。「一つは歌を唄うこと」「ああ、昨日も歌ってくださいましたね」と私。「もう一つはね、疲れて帰ってくる正に、マッサージをしてあげること。仕事して疲れて帰ってきて私の食事の用意とかしてたいへんで、ちょっとイライラする時もあるのね。そんなときマッサージしてあげたら、少し優しくなるみたい」とベニシアさんは少女のように微笑む。「やっぱり人はコミュニケーションが大事でしょう。自分のことを思ってくれて大事にしてくれる人が必要。ひとりでは生きられないものね」

不安の中にあって常に前を向いて歩こうとする力は人のどこに備わっているのだろう。本能なのか、生理なのか。やさしさを保ちながら、さらに強くあることは、簡単なようでいてなかなかできることではない。

不意に電話が鳴る。「そういえば、今日レベッカが来るのよ」とパッと顔が明るくなるベニシアさん。

レベッカさんはベニシアの大の親友。アメリカ人でやはり京都に暮らして数十年。時々訪ねて来て一緒に過ごす。英語でコミュニケーションができるのも二人の楽しみの一つだという。

レベッカさんが来たら、これから二人で外に散歩に出るとのこと。私も一緒にお供させていただくことになった。