京都編 その三

 

京都でベニシア・スタンレー・スミスさんのインタビューを行うことになった私は、到着後夕食を共にし、次の日の朝からインタビューということになっていた。

NHK「猫のしっぽ カエルの手」の番組や、出版された本の中では幾度となくベニシアさんの暮らしは紹介されていた。約40年前、英国の貴族社会を飛び出し、イギリスからインドに渡ったこと、初めて日本に来た時の事、京都での生活、正さんとの出会い、大原の古民家への移住。庭づくり。花とハーブづくり、工芸家や庭師の友人達とのつながり。

いろいろな場面で紹介されているベニシアさんとは別の横顔が見つけられたらいいなと内心思っていた。初めて話す私になんとか打ち解けていただけないものか。

梶山正さんとベニシアさんのお宅にお邪魔する。目が見えなくなりつつあるベニシアさん、顔もわからない私に、心を開いてくれるのだろうか。

京都で英会話教室を開いて多くの生徒を育ててきたベニシアさん。私には分かりやすく簡単な英語で話してくれているのが伝わってくる。だんだんと視力が衰えていっていること、それに対して不安があること、そして、それでも諦めず今の生活を少しでも充実させたいと考えている、と語るベニシアさん。

今までインタビューのためにいろいろな本を読んで下調べをしてきたつもりであったが、実際お会いしなければわからなかったこと、現実のベニシアさんから醸し出される「気」のようなものを私は感じ取っていた。それは「優しさと慈しみ」に満ち溢れるふんわりとしたもの。知識や理屈を超えたところにある人間性。長い年月を経て彼女に備わったものに違いない。 

私たちのために、歌を唄いたいという。二階のベニシアさんのプライベートな部屋に通される。窓の向こうは緑がいっぱい。CDをかけてくれた。

「♪Singsing a song. Sing out loud. Sing out strong. Sing of good things, not bad. Sing of happy,not sad…シング、歌おう、声を合わせ、悲しいこと忘れるため…」

 日本語も交えてたて続けに、疲れも見せず唄い続ける姿は生き生きとしている。サイモン&ガーファンクルの、スカボローフェアがベニシアさんの口から流れたとき、不覚にも目から涙が落ちた。