news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

WHOによる住宅と健康のガイドライン

WHOが昨年11月末に公表した「住宅と健康のガイドライン:Housing and Health Guidelines」を紹介します。全世界に向けた住宅と健康のガイ ドラインです。私は開発当初から委員として関わっており、ようやく公表するに至りました。

WHO Housing and health guidelines
https://www.who.int/sustainable-development/publications/housing-health-guidelines/en/

1.住居内の過密性(感染症対策)
2.過剰な暑さや寒さ(室内温度)
3.住居内のアクセスのしやすさ(バリアフリーなどの高齢者や障害者対応)
4.住居における傷害要因に対する安全性(ベランダの手すり、乳幼児用階段ゲート、煙探知・一酸化炭素探知、火傷防止)
5.飲料水の水質、空気質、有害物質(石綿、鉛、ラドン)、騒音(先月のトピックで紹介済み)、受動喫煙→既往のガイドラインのまとめ

住居内の過密対策、アクセスのしやすさ、傷害要因対策については、日本は対策が進んでいると思っています。夏期の暑さ対策と冬期の寒冷曝露については、日本には課題があると個人的には考えています。このガイドラインにおいて、低温側では、温暖あるいは寒冷地域においては寒冷期で18℃以上が推奨されています。18℃未満になると、寒冷期の心血管疾患による死亡リスクが上昇すると判断されています。

ご関心のある方は、ご参考いただければと思います。

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WHOによる環境騒音のガイドライン

WHO欧州事務局が今年公表した「環境騒音のガイドライン:Environmental Noise Guidelines for the European Region」を紹介します。欧州地域となっていますが、騒音によるヒトへの影響に関しては、既往の科学的知見全般をレビューしてガイドラインを導出していますので、他の地域にも適用が可能なガイドラインとなっています。

Environmental Noise Guidelines for the European Region
http://www.euro.who.int/en/health-topics/environment-and-health/noise/environmental-noise-guidelines-for-the-european-region

騒音による健康影響には、循環器疾患、睡眠障害、認知障害、聴覚障害、胎児への影響、代謝への影響などがあります。ガイドラインの概要は以下の通りです。dBはデシベルという単位です。

1)交通騒音
ガイドラインの平均レベル:53 dB
夜間のガイドライン:45 dB(特に睡眠障害と関係)

2)鉄道騒音
ガイドラインの平均レベル:54 dB
夜間のガイドライン:44 dB(特に睡眠障害と関係)

3)航空機騒音
ガイドラインの平均レベル:45 dB
夜間のガイドライン:40 dB(特に睡眠障害と関係)

4)風力発電騒音
ガイドラインの平均レベル:45 dB
夜間のガイドライン:現時点では設定できない

5)娯楽による騒音(ナイトクラブ、パブ、フィットネス、スポーツイベント、コンサート、音楽イベント、音楽鑑賞(ヘッドホン)など)
ガイドラインの年間平均レベル:70 dB

ご関心のある方は、ご参考いただければと思います。

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WHOによる大気汚染と健康に関する世界会合

10/30~11/1の3日間、WHOが大気汚染と健康に関する初めての世界会合をジュネーブで開催されました。

現在、以下のサイトで、実況ビデオをみることができます。
http://www.who.int/airpollution/events/conference/en/

空気質ガイドラインのアップデートに関しても紹介がありました。2016年以降検討を行っており、現在、粒子状物質、二酸化窒素、オゾン、二酸化硫黄、一酸化炭素の空気質ガイドラインのアップデート、また、新規では自然起源のミネラルダストの空気質ガイドラインを検討中とのことでした。

自然起源のミネラルダストは、粒子状物質に関連して、砂漠のダストを意図しているようです。
 

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国際がん研究機関がスチレンの発がん性分類を格上げ

国際がん研究機関は、化学物質や業務について、ヒトに対する発がん性を評価し、公表しています。これまで約1000の物質や業務に対して発がん性分類がなされてきました。以下が各分類です。ヒトに対する発がん性が明らかなグループ1としては、石綿、ベンゼン、ホルムアルデヒド、たばこ、木材粉じん、紫外線、大気汚染、アルコール飲料、ディーゼル排気ガス、粒子状物質、加工肉などがあります。

グループ1:発がん性がある
グループ2A:おそらく発がん性がある
グループ2B:発がん性があるかもしれない
グループ3:発がん性を分類できない
グループ4:おそらく発がん性がない

スチレンは、これまでグループ2B(発がん性があるかもしれない)に分類されていました。しかし今年3月に開催された専門家会合において、スチレンの発がん性分類がグループ2Aに格上げされました。グループ2Aには、鉛、アクリルアミド、ポリ塩化ビフェニルなどが分類されています。

ヒトの調査では、リンパ造血系の悪性腫瘍(骨髄性白血病など)を生じる信頼できる証拠があると判断されました。ただし、他の要因の影響がまだ残っているため、証拠が十分とは判断されませんでした。

マウスを用いた吸入実験では、肺がんを生じることが確認され、その証拠は十分であると判断されました。

これらの結果から、発がん性分類が2Aに格上げされました。

スチレンは、発泡スチロール(ポリスチレンの発泡体)の原料です。また、コーキング剤にも使用されており、コーキング剤が使用されたバルコニー近辺の室内空気で高濃度検出された事例もありました。
 

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樹脂製の消費者製品から放散される揮発性化学物質

先週、米国のフィラデルフィアで国際室内空気質気候学会(ISIAQ)主催の国際学会「Indoor Air 2018」が開催され、出席してきました。

この国際学会は、室内空気に関する学術集会では最も権威のある学会で、近年は2年毎に世界各地を転々として開催されています。私は毎回研究発表のため出席しています。

この学会において、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所が、消費者製品から放散される揮発性化学物質に関する研究結果を報告しました。特に、消費者製品の中でも、樹脂製品に着目した研究発表でした。

消費者製品とは、建築材料ではなく、室内に持ち込まれるさまざまな生活用品です。例えば、家具、クッション、玩具、日用品などがあります。

樹脂製品とは、プラスチック製の製品のことです。私たちの身の回りには、プラスチックス製の製品がたくさんあります。プラスチック製品は、化学原料を合成して製造されますので、さまざまな化学物質が含まれています。

今回の発表では、ポリウレタン(通称、ウレタン)、軟質塩化ビニル樹脂(通称、塩ビ樹脂)、ポリプロピレンを小形のチャンバーに入れて、そこから放散される化学物質を測定した結果が発表されました。

その結果、ポリウレタンと軟質塩化ビニル樹脂からは、多くの揮発性化学物質が検出されました。一方、ポリプロピレンからは、ほとんど揮発性化学物質が検出されませんでした。ポリプロピレンは、食品容器などにも使用されている半透明の樹脂です。

元来、樹脂製品は、安全性が高いと考えられていました。しかし、樹脂製品の中にも、刺激臭を感じる製品があると思います。そのような樹脂製品からは、微量ではありますが、多種類の揮発性化学物質が放散されていることが、今回の発表で明らかとなりました。

今回の発表では、放散される化学物質をもとに部屋の室内空気中濃度を算出した結果、健康リスクとしては、心配ないレベルでした。ただし、このような樹脂製品から放散される化学物質を、製品を近づけて吸入する、あるいは皮膚に接触して体内に侵入することで、どのような影響が生じるか、あるいは心配する必要がないかについては、さらに詳細な検討が必要です。私たちが曝露する経路は、室内空気中に放散されて希釈された部屋の空気の吸入だけではないからです。

これまでにあまり報告されたことがなく、とても興味深い研究報告でしたので、本トピックで紹介いたしました。今後さらに研究が行われていくと思いますので、機会があれば改めて紹介したいと思います。
 

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WHO大気汚染報告書

WHOの最新の報告書によると、大気汚染(主として微小粒子状物質:PM2.5)が世界的に拡大を続けており、肺がんや呼吸器疾患などで年間約700万人が死亡していると試算しています。世界の人口の約90%が汚染された大気の中で生活しており、深刻な状況にあると指摘しています。

2012年の推計値では、室内空気汚染で約430万人、大気汚染で約370万人と推計していました。今回の報告書では、2016年の推計値として、室内空気汚染で約380万人、大気汚染で約420万人と推計しています。

室内空気汚染による推計死亡数は減少しましたが、大気汚染による推計死亡数が増加し、合計すると2012年の推計死亡数とほぼ同数となっています。

WHO: News release: 9 out of 10 people worldwide breathe polluted air
http://www.who.int/airpollution/en/

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文部科学省学校環境衛生基準の改正

学校環境衛生基準の一部改正について(通知)
29文科初第1817号、平成30年4月2日
http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1403737.htm

特に留意すべき項目は、温度の基準改正です。改正前と改正後を以下に示します。

(改正前)
検査基準:冬期10度以上、夏期30度以下であることが望ましい
但し、児童生徒等に生理的、心理的に負担をかけない最も学習に望ましい条件は、冬期で18~20℃、夏期で25~28℃程度である。最も望ましい:冬期18~20度、夏期25~28度

(改正後)
検査基準:冬期17度以上、夏期28度以下であることが望ましい

温度の基準は、1964年の基準策定から改正されたことがありませんでした。エアコンの普及が背景にあるようですが、夏期の気温は上昇してきており、熱中症を防止する観点からも、良い改正ではないかと思います。

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WHOによる工業用ナノ材料から労働者を保護するためのガイドライン

ナノ材料は、100ナノメートル(10のマイナス7乗メートル)未満の径(高さ、幅、長さのいずれか)を有する極めて小さい材料です。おおよそウイルスの大きさと同様です。このようなサイズの材料は、塗料、医薬品、電子材料の分野で使用されています。しかしながら、この小さなサイズが原因で、ヒトの体内に侵入すると、さまざまな健康障害を引き起こす可能性が懸念されています。

しかしながら、ヒトの対する体内への侵入経路や体内動態、生体影響については不明な点が多いのが現状です。いくつかの工業用ナノ材料で生体影響が調査されていますが、工業用ナノ材料が使用始めてからの歴史が浅く、ヒトの慢性影響については観察されていません。そこで、細胞や動物での実験結果から、ヒトに対してあてはまるかどうかを検討しなければなりません。

このような観点から、WHOでは、予防原則の基本理念が工業用ナノ材料に適用されました。そして、特に最も工業用ナノ材料に近いところにいるのが、工業用ナノ材料を取り扱う労働者であることから、WHOは労働者を保護するためのガイドラインを作成いたしました。

ご関心のある方は、ご参考いただければ幸いです。

工業用ナノ材料のリスクから労働者を保護するためのガイドライン
WHO guidelines on protecting workers from potential risks of manufactured nanomaterials
http://www.who.int/occupational_health/publications/manufactured-nanomaterials/en/

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WHOによる住宅の衛生害虫に関する改善指針

住宅の衛生害虫に関する改善指針
Keeping the vector out – Housing improvements for vector control and sustainable development
http://www.who.int/social_determinants/publications/keeping-the-vector-out/en/

デング熱、マラリア、シャーガス病、リーシュマニア症など、熱帯
地域でみられる衛生害虫が媒介する感染症について、住宅
との関係や対策が記載されています。ご関心のあるは、
ご参考いただければと思います。

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平成29年度生活衛生関係の厚生労働省報告

以下のサイトに厚生労働省が開催した平成29年度生活衛生関係技術担当者研修会の報告資料が公開されています。

平成29年度生活衛生関係技術担当者研修会(平成30年2月1日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu-eisei/gijutukensyuukai/

1)建築物衛生の動向と課題
2)科学的エビデンスに基づく新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル改訂新版
3)衛生動物に関する最近の動向
4)最近のレジオネラ症の発生動向と検査方法
5)2017年に広島県内で発生したレジオネラ症集団感染事案について
6)日帰り入浴施設におけるレジオネラ症集団発生事例
7)給水・給湯系におけるレジオネラ汚染の実態
8)温泉水に有効な消毒法の選定と実施例
9)各種配管洗浄の紹介と実施例

シックハウス症候群に関する相談マニュアル改訂新版について紹介されて
います。また、建築物衛生やレジオネラなど、近年の調査研究の結果が
紹介されていますので、ご関心のある方は、ご参考いただければと思います。

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