news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

カナダ保健省の室内空気質ガイドライン-アセトアルデヒド-

短期間曝露の指針値:1420 μg/m3(1時間値)
(喘息患者における気道の収縮反応に基づいて)

長期間曝露の指針値:280 μg/m3(24時間値)
(動物における鼻腔の嗅上皮の変性に基づいて)

Residential indoor air quality guideline: acetaldehyde
https://www.canada.ca/en/health-canada/services/publications/healthy-living/residential-indoor-air-quality-guideline-acetaldehyde.html

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ドイツの室内空気質ガイドライン-プロピレングリコール-

2018年1月のトピックでは、ドイツ連邦環境庁が2017年に公表したプロピレングリコールの室内空気質ガイドラインを紹介します。

ガイドライン1:600 μg/m3
ガイドライン2:60 μg/m3

プロピレングリコールは、建材では塗料や接着剤などの有機溶剤として使用されています。

(参考)
ガイドライン2は健康影響ベース、ガイドライン1は予防のためのガイドラインです。ガイドライン2を越えていたならば、特に、長時間在住する感受性の高い居住者の健康に有害となる濃度と判断されるため、即座に濃度低減のための行動を起こすべきと定義されています。

ガイドライン1は、長期間曝露したとしても健康影響を引き起こす十分な科学的根拠がない値と考えられています。しかし、ガイドライン1を越えていると、健康上望ましくない平均的な曝露濃度よりも高くなるため、予防のために、ガイドライン1とガイドライン2の間の濃度である場合には行動する必要があると定義されています。

従って、ガイドライン1が、長期間曝露による健康影響を未然に防止するうえで目指していくべき室内空気質といえます。

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送電線の電磁界による健康影響と国内外の対応―その3―

2017年12月のトピックをお送りします。今回のトピックは、前回に引き続き、送電線の電磁界曝露による健康影響防止に関する諸外国の対応について紹介します。予防的観点から対策を進めている諸外国として、前回はベルギーとフランスにおける対応状況を紹介しました。今回は、ドイツ、オランダ、イギリスの対応状況を紹介します。

1)ドイツ
ドイツでは法令で、1キロボルト以上の電圧を有する送電線施設の新設や改修時には、最先端技術を用いて電磁界曝露を最小限に抑えるよう定めています。高電圧の送電線を敷設する経路を計画する際には、住民が長期間滞在する建物の上を送電線が横切らないように計画されます。電磁界曝露の最小限化は、住民が一時的に滞在することを意図した場所を除き、住宅、病院、学校、保育施設、遊び場など、住民が長期間滞在する場所に適用されます。電磁界曝露の最小限化手段は、費用、機能性、環境負荷、福祉、労働安全性を考慮して検討されます。送電線の新設に関しては、住民が長期間滞在する場所では0.3μT(マイクロテスラ)以下にするなど、さらに厳しい措置が適用されている地域もあります。

2)オランダ
オランダでは、年平均で0.4μT(マイクロテスラ)を超える高圧送電線が敷設される地域では、小児が長期間電磁界に曝露する状況が生じないよう、国が地方自治体や電力会社に助言しています。この助言は高圧送電線だけに適用され、小児白血病との関係が疫学的に示されていない他の電磁界発生源には適用されません。

3)イギリス
イギリスでは、送電線による電磁界曝露を低減する位相整合の最適化など、低コスト対策の実行が推奨されています。また、イギリス政府は、住宅と送電線の間に立入禁止区域を設置することで、電磁界曝露をさらに低減するよう検討していますが、まだ実行計画はない状況となっています。
 

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送電線の電磁界による健康影響と国内外の対応―その2―

送電線周辺に居住する小児で白血病のリスクが上昇する可能性が示唆されていますが、十分な確証が得られていない状況です。但し、欧州のいくつかの国では予防的観点から対策を行っています。今回は、ベルギーとフランスにおける対応を紹介します。

1)ベルギー
ベルギーは、ブリュッセル首都圏地域、フランデレン地域、ワロン地域の3地域で構成されています。電磁界対策は、それぞれの地域毎に対応が異なります。

(1)フランデレン地域
ベルギーの国土の北半分を占めるフランデレン地域は、送電線を新設する際は、学校、保育所の上空に送電線を敷設することを避けること、住宅の上空に施設することは最小限に抑えるよう勧告しています。

学校と保育所を新築する際には、年平均で0.4μT(マイクロテスラ)を超える電磁界の場所には新築しないこと、また、室内環境に関する法令では、住宅や公共建築物を含めて10μT未満の低周波電磁界曝露に抑えることが必要とされ、0.2μTの実現に向けて努力するよう助言しています。

(2)ブリュッセル首都圏地域
15歳以下の小児が滞在する可能性のある場所の近辺に変圧器を新設する場合の電磁界曝露の環境基準として、24時間平均で0.4μT未満と定めています。

(3)ワロン地域
電力設備の電磁界曝露に関する予防的措置は定められていません。

2)フランス
フランスでは、小児の電磁界曝露が1.0μTを超える送電線、送電ケーブル、変圧器、母線の近辺に病院、産科病棟、保育施設を新築することはできる限り避けるよう各県に助言しています。

法的根拠はありませんが、送電系統の新設計画において、上述のようなセンシティブな場所の近辺にはできる限り電力設備を新設しないよう、電力会社が努力しています。

次回は、ドイツとオランダの対応について紹介します。
 

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送電線の電磁界による健康影響と国内外の対応―その1―

私たちは、発電所から送電線を通じて送られる電気を使用して生活しています。送電線に電気が流れると、電磁界が発生します。磁石や地磁気など、周波数がゼロの電磁界を静電磁界といいます。

私たちが使用する電気は50Hz(ヘルツ)または60Hzの周波数で、超低周波電磁界に分類されます。携帯電話の電波は800MHz(メガヘルツ)や2GHz(ギガヘルツ)ですので、高周波電磁界に分類されます。3THz(テラヘルツ)になると光の領域、3000THz以上になると放射線の領域になります。今回の話題は、超低周波電磁界です。

送電線等から発生する超低周波電磁界に曝露すると、体の中を電気が流れますので、神経や筋肉の活動に影響します。しかし、送電線や変電所からの電磁界はそれほどの強さではありません。

ただし、低強度であっても、長期間曝露すると人の健康に影響を与えるかもしれないとの報告があります。例えば、0.3から0.4μT(マイクロテスラ)以上の磁界に曝露すると小児白血病の発生リスクが高くなると報告されています。但し、その発生機序は十分わかっておらず、証拠は限定的と考えられています。

日本では、経済産業省が磁界に対する規制を導入し、「電気設備に関する技術基準を定める省令」を平成23年に一部改正しました。規制値としては、変圧器、開閉器等や電線路等を変電所等以外の場所に施設する場合には、当該施設の周辺において測定した空間の磁束密度の平均値が200μT以下となるように設置するという内容です。

この規制は、高レベルの磁界への短期的な曝露によって生じる健康影響への対応として、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が公表したガイドラインに基づき定めたものです。低レベルの磁界による長期的な健康影響については、更なる研究プログラムを推進し、リスクコミュニケーション活動を充実させることとなっています。

次月のトピックでは、欧州諸国における対応を紹介します。
 

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ドイツ連邦環境庁による室内空気に関する健康リスク報告

ドイツ連邦環境庁は、「2017年重点」という年次報告書を公表しました。
http://www.umweltbundesamt.de/en/publikationen/schwerpunkte-2017

この中で、室内環境で使用される建材に関する警告を発しています。ドイツでは、ドイツ建築基準協会(DIBt)が室内空気に影響を与える建材製品の試験基準(対象は揮発性有機化合物)を設定しており、この協会の基準に適合する製品には認証マークが付けられてきました。

しかしながら、欧州司法裁判所は、加盟各国において、健康保護のための厳格な要求を建材製品に課すことを今後は認めないとする決定を下しました。この決定に至った経緯は不明ですが、この決定によって、欧州連合全体で、健康と環境の保護に影響を与える可能性が懸念されています。そして、ドイツ建築基準協会の認証マークが今後は利用できなくなる可能性が懸念されています。

上記の認証マーク等のラベリングは、消費者が健康に配慮した製品であるかどうかを確認するうえでも重要です。そのため、製品に対する明確なラベリングが必要とされてきました。
 

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2-エチルヘキサノールの放散防止材

2-エチルヘキサノールに対して、厚生労働省の室内濃度指針値が提案されていることは前回のトピックで紹介しました。

2-エチルヘキサノールは、塩ビ樹脂に含まれる2-エチルヘキシルフタレート(フタル酸-2-ジエチルヘキシル)がコンクリートのアルカリ成分と反応して加水分解することで生成されます。

コンクリートの下地に塩ビのフロアーや壁紙を敷設していると、2-エチルヘキサノールが空気中に放散される可能性が高くなると考えられています。

昨年、室内空気の国際学会がベルギーで開催された際に、2-エチルヘキサノールの健康リスク評価に関する研究発表を私は行いました。その際に、スウェーデンのルンド大学(Lund University)のラルソン教授 (Prof. Larsson)から、2-エチルヘキサノールの放散防止材を開発したということで、紹介を受けました。cTrapという名称の商品でした。シート状の商品です。

ラルソン教授は医学系の先生で、生物医学がご専門なのですが、健康障害防止の観点から、cTrapの開発に関わっているようです。ラルソン教授は、室内空気の国際学会でよくみかける先生です。

先月、ポーランドで開催された国際学会でもラルソン教授と再会し、引き続きcTrapを紹介していきたいとお話されていました。実験で2-エチルヘキサノールの放散量を低減したことやヒトの症状が改善したことも確認しているとのことでした。

cTrap
http://www.ctrap.com/

日本にも類似した技術があるかもしれませんが、2-エチルヘキサノールは、欧州でも問題になっており、ドイツでは日本よりも先行して2-エチルヘキサノールの室内濃度指針値を策定しています。

本トピックで特定の商品を紹介するのは、好ましいことではないとは思いますが、建築現場で施工業務に携わっている方々に、何らかのかたちでご参考になれば幸いです。
 

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厚生労働省が室内濃度指針値案のパブリックコメント公募中

厚生労働省が室内濃度指針値案のパブリックコメントを開始しました。

新規指針値策定物質として、2-エチル-1-ヘキサノール、テキサノール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート(TXIB)を提案しています。

すでに室内濃度指針値が策定されている物質では、キシレン、エチルベンゼン、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の4物質の室内濃度指針値の改定案が提示されています。

パブリックコメントの公募期間は、2017年6月5日~7月4日までとなっています。

下記のパブリックコメントのサイトに入り、検索画面で「シックハウス」と入力して検索すれば、以下の案件が表示されます。

電子政府の総合窓口(パブリックコメント):http://www.e-gov.go.jp/
【案件番号:495170055】 室内空気中化学物質の指針値案に対する御意見の募集について
 

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世界保健機関(WHO):環境汚染による小児の死亡とその原因及び対策

WHOによると、5歳未満の小児の4人に1人が不健全な環境が原因で死亡しているとのことです。その主な原因は、室内空気汚染、大気汚染、受動喫煙、不衛生な飲料水、衛生環境の不足、不十分な衛生状態であり、毎年170万人の小児が死亡しているとのことです。

死亡原因の上位5疾病は以下の通りです。
1)推定死亡数57万人
肺炎、室内空気汚染、大気汚染、受動喫煙による気道感染症
2)推定死亡数36万人
不衛生な飲料水や衛生状態の悪化による下痢症
3)推定死亡数27万人
早産などによる生後1ヶ月以内の死亡
(安全な飲料水の確保や空気汚染の改善など、医療施設における衛生状態の改善で予防可能)
4)推定死亡数20万人
マラリア
(媒介蚊の削減などで予防可能)
5)推定死亡数20万人
落下や溺死など環境に起因するによる不慮の事故

これらの問題に対して、以下のような行動を世界各国の関係部門に呼びかけています。
・住宅
暖房や調理におけるクリーンな燃料の使用、カビや衛生害虫の削減、不安全や不衛生な建築材料の除去、鉛含有塗料の除去
・学校
安全な衛生環境の提供、騒音や汚染の低減、良質な栄養の促進
・医療施設
安全な飲料水や衛生状態、安定した電力の確保
・都市計画
より多くの緑化空間、安全な歩行路や自転車路の確保
・輸送
排気ガスの削減、公共交通機関の増加
・農業
有害な農薬の使用削減、小児の労働ゼロ
・産業
有害廃棄物の管理、有害化学物質の使用削減
・健康部門
健康状態の監視、環境衛生と疾病予防に関する教育

詳細は、以下のWHOのウエブサイトで閲覧できます。
http://who.int/mediacentre/news/releases/2017/pollution-child-death/en/

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ドイツの室内空気質ガイドライン-トルエン、キシレン、エチルベンゼンの総和の低減に向けて-

1996年に公表したガイドラインを見直し、以下のようになりました。ただし結果的には、1996年のガイドラインを維持する(同じ値)こととなりました。

ガイドライン1:0.3 mg/m3
ガイドライン2:3.0 mg/m3

また、トルエン、キシレン、エチルベンゼンは、同じような神経毒性を有していることから、それぞれのガイドラインに対する室内濃度の割合を合計した値(リスクの総和)が1未満になるように評価するよう求めています。これは新たな試みで、例えば以下のように評価します。

ガイドライン1は以下の通り
トルエン:0.3 mg/m3
キシレン:0.1 mg/m3
エチルベンゼン:0.2 mg/m3

実際の測定濃度が以下であった場合(個々の物質の濃度はガイドラインを下回っています)
トルエン:0.1 mg/m3
キシレン:0.05 mg/m3
エチルベンゼン:0.1 mg/m3

リスクの総和: 0.1/0.3(トルエン)+0.05/0.1(キシレン)+0.1/0.2(エチルベンゼン) = 1.3

リスクの総和が1.3ですので、1より大きいことから、対策を検討すべきという考えになります。このリスクの総和が1よりも小さくなるようにすべきということになります。

(参考)
ガイドライン2は健康影響ベース、ガイドライン1は予防のためのガイドラインです。ガイドライン2を越えていたならば、特に、長時間在住する感受性の高い居住者の健康に有害となる濃度と判断されるため、即座に濃度低減のための行動を起こすべきと定義されています。

ガイドライン1は、長期間曝露したとしても健康影響を引き起こす十分な科学的根拠がない値と考えられています。しかし、ガイドライン1を越えていると、健康上望ましくない平均的な曝露濃度よりも高くなるため、予防のために、ガイドライン1とガイドライン2の間の濃度である場合には行動する必要があると定義されています。

従って、ガイドライン1が、長期間曝露による健康影響を未然に防止するうえで目指していくべき室内空気質といえます。
 

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