news letter 「住まいと健康」を考える 東賢一

樹脂製の消費者製品から放散される揮発性化学物質

先週、米国のフィラデルフィアで国際室内空気質気候学会(ISIAQ)主催の国際学会「Indoor Air 2018」が開催され、出席してきました。

この国際学会は、室内空気に関する学術集会では最も権威のある学会で、近年は2年毎に世界各地を転々として開催されています。私は毎回研究発表のため出席しています。

この学会において、ドイツ連邦リスクアセスメント研究所が、消費者製品から放散される揮発性化学物質に関する研究結果を報告しました。特に、消費者製品の中でも、樹脂製品に着目した研究発表でした。

消費者製品とは、建築材料ではなく、室内に持ち込まれるさまざまな生活用品です。例えば、家具、クッション、玩具、日用品などがあります。

樹脂製品とは、プラスチック製の製品のことです。私たちの身の回りには、プラスチックス製の製品がたくさんあります。プラスチック製品は、化学原料を合成して製造されますので、さまざまな化学物質が含まれています。

今回の発表では、ポリウレタン(通称、ウレタン)、軟質塩化ビニル樹脂(通称、塩ビ樹脂)、ポリプロピレンを小形のチャンバーに入れて、そこから放散される化学物質を測定した結果が発表されました。

その結果、ポリウレタンと軟質塩化ビニル樹脂からは、多くの揮発性化学物質が検出されました。一方、ポリプロピレンからは、ほとんど揮発性化学物質が検出されませんでした。ポリプロピレンは、食品容器などにも使用されている半透明の樹脂です。

元来、樹脂製品は、安全性が高いと考えられていました。しかし、樹脂製品の中にも、刺激臭を感じる製品があると思います。そのような樹脂製品からは、微量ではありますが、多種類の揮発性化学物質が放散されていることが、今回の発表で明らかとなりました。

今回の発表では、放散される化学物質をもとに部屋の室内空気中濃度を算出した結果、健康リスクとしては、心配ないレベルでした。ただし、このような樹脂製品から放散される化学物質を、製品を近づけて吸入する、あるいは皮膚に接触して体内に侵入することで、どのような影響が生じるか、あるいは心配する必要がないかについては、さらに詳細な検討が必要です。私たちが曝露する経路は、室内空気中に放散されて希釈された部屋の空気の吸入だけではないからです。

これまでにあまり報告されたことがなく、とても興味深い研究報告でしたので、本トピックで紹介いたしました。今後さらに研究が行われていくと思いますので、機会があれば改めて紹介したいと思います。
 

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