我が家の水槽は幅30cmほどの小さな水槽だ。フグにカーストがあることは以前触れたが、我が家の小さな世界の底辺で生きているのはバンブルビーゴビーという、これまたフグに負けぬほど愛らしいハゼ科の魚だ。バンブルビー（Bumblebee）とは元来英語でマルハナバチを意味する。黒に黄色のストライプ模様が美しいバンブルビーゴビーの名前は、マルハナバチの体色に似ていることに由来する。3cmに満たないほどの小さなバンブルビーゴビーは、アベニーパファーと同様東南アジアの海に近い河川に生息する。

たまたま訪れた熱帯魚専門店でアベニーパファーと同じ水槽に入れられていた姿を見たのがきっかけだった。アベニーパファーは特に気性が荒いので他の魚との混泳は半ば諦めていたが、熱帯魚専門店などで色々な魚を見ていると、つい他の魚も飼ってみたいという欲が湧いてくるのだから仕方ない。

店員さんにアベニーパファーとの混泳が可能なことを確認して、私は2匹のバンブルビーゴビーを購入した。それから3年近く、変わらず元気に暮らしているところを見ると我が家の水槽環境と相性が良かったのだろう。

フグたちはバンブルビーゴビーを追いかけ回すでもなく、まるでいないものとでも思っているのか、はたまた興味がないのか、彼らが争っている光景に未だかつて遭遇したことがないのは何よりだ。

餌はフグと同じアカムシを与えているが、まずフグたちが食事をする。そしてフグの食事が終わりかけた頃、まるでタイミングを計ったかのようにバンブルビーゴビーはどこからともなく姿を現す。フグたちに気を使ってか、その存在を恐れているのか、いつも「三歩下がって」とまではいわないが、まるで昔日の大和撫子のように暮らしているのがまたよりいっそう愛らしく感じられる。

そんな淑やかなバンブルビーゴビーだが、本来はフグと同じく獰猛で激しい気性の持ち主だということをつい最近になって知った。ずっと静かで上品な住人だと勝手に思い込んでいたが、きっと穏やかに暮らすための彼らなりの処世術なのだろうと思うと、その気苦労と健気さに少しせつない気持ちになってしまった。