フグの世界にもカースト制なるものがある。三匹のフグを飼い始めてしばらくすると、体格や模様はもちろん性格もまったく違うことがわかった。
　三匹の頂点に立つのは「ジャイアン」。黄色味の強い体色と、鋭い眼差し、他のフグよりひと周り大きな体をしているのが彼の特徴だ。ジャイアンは自分の前方に他のフグが泳いでいるだけで、もう気に入らない。相手が視界からいなくなるまでしつこく追い回す。餌には真っ先に食いつき、その大きな体を勢いよく振り回し他のフグたちを蹴散らす。彼の傍若無人っぷりはまさにジャイアンの名にふさわしい。

　一番小さなフグ「チビ」は、ときどきジャイアンの被害に遭いながらも、マイペースを崩さない。その小さな体ですばしっこくジャイアンの追跡をかわし、何事にも要領よくやっていた。
　そして、ごま模様がくっきり浮き出ている雌のフグには「ごま」と名付けた。ごまの目玉は斜になっていて、正面から見ると少し困ったような顔をしている。フグの見た目と内面は人間世界のそれとマッチしないことはわかりきっていることだが、不思議なことにフグの世界でも強そうな者が強く、頼りなさそうにしている者は弱者であるらしい。ジャイアンの最初の犠牲者となったのはこのか弱きごまであった。
　そのうちごまは全くエサを食べなくなった。ごまだけ水槽を別にして餌を与えても、少しも興味を示さない。日に日に痩せこけていき、フグのチャームポイントであるぷっくりしたおなかも、めざしのように凹んでしまった。

　攻撃性が強く、他種との混泳には向いていないフグだが、繊細で頑固な面も持ち合わせている。少しでも気に入らないことがあると、すぐ食べることをやめてしまう。我が家にはフグの他にジリスなる小動物が同居しているが、こちらは飼い主すらよせつけないほどのビビリ屋で小心者だ。だが、案外豪快なところもある。チラチラ水槽の中から外の様子を伺うフグと、そんなことはみじんも気にかけないジリスの対比は実に面白いものだ。