「三寒四温」とは冬から春へ徐々に寒さが引いていく様子を表すが、夏から秋へ季節が変わるときはさしずめ「三温四寒」といったところだろうか。朝寒さに負けて、足元専用の小型ヒーターのスイッチを押すことも多くなった。
我が家の水槽では冬場はオートサーモスタットを使用している。これはメーカーによって設定温度がまちまちだが、だいたい26℃を超えるとヒーター機能が停止するようになっており、水槽内の水温を一定に保つことができる便利なアイテムだ。フグにとって快適な水温は25~26℃。水槽脇に設置した水温計をのぞきこんではそろそろ水槽にヒーターを設置しなければと思うこの頃。東南アジアの河川がふるさとのフグたちは、暑さに強いが寒さに弱い。ちょっと寒さを感じる日には底の方でじっとうずくまっている。
以前母が送ってくれた絵葉書に、アラスカの草原に凛と立つアラスカジリスの姿があった。動物写真家として知られた故・星野道夫氏の作品だ。私はそれを見たとき一瞬胸がせつなくなった。草ばかりが広がる過酷なまでに美しい大自然のなかに、草影から身をひそめるようにしてどこかを見つめる1匹のジリス。円らな瞳に映るのは、何かに怯えながらもたくましく生きようとする強い意志。私がその写真に見たものはジリスの「野性」だった。野性が一番だとかそんなきれいごとを語るつもりは毛頭ない。ただただその姿が美しく、我が家のジリスにないものを確かに持っていたことが少し羨ましくもあり、哀しかったのだ。
フグたちのふるさとはどんなところなのだろう。彼らにもジリスと同様、野性の姿があるのだろうか。インドの 南西部にあるパンバ川にフグたちの仲間が暮らしているというが、いつか自然に暮らす彼らの姿を目にしたいと思う。「ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの」。私はフグやジリスに代わって、こうしてその思いを切々と綴っているような気もする。そしてそれを自分に重ねているのかもしれない。