Vol.5 フグの不思議

Vol.5 フグの不思議

カメレオンの体色変化がカムフラージュのためということはよく知られているが、そのほかにメスの気を引く、太陽の光を遮断するという理由もあるという。
カメレオンのように七変化とまではいかないが、我が家のフグもときおりその体色を変化させる。一番顕著なのが、月一回行う水槽の水換えのときだ。水換えは予備の水槽へ少しずつスポイトで水をすくい、コーヒーフィルターでこしながら移し替えていく。これはなかなか根気のいる作業で、水槽そうじには半日を費やす。

水が少なくなったところでフグを網ですくって移動させる。予備の水槽にフグを移す頃には、たいていフグの体色が白っぽく変化している。温度の変化に起因するのか、危険察知からくるカムフラージュの一種なのかは定かではないが、確かに色が変わっているのだ。
水槽を洗い乾燥させたあと、再び予備の水槽からスポイトで水を移し替えていく。いつもの水槽に落ち着いたフグは、しばらくするといつものような黄味がかった体色へと戻っていく。

体色変化以外にもフグには興味深い習性が見られる。水槽の水が少しずつ減っていくにつれて、何かを察知したかのように水槽の隅で群れはじめるのだ。自然界に生きるアベニパファーは、大きな群れを作って暮らしているという。外敵が多く過酷な環境に暮らすなかで、群れをなすことで少しでもその危険を回避しようとするのだろう。

幼い頃に読んだ「スイミー」の話は、群れを作って大きな魚を追い出すというものだったが、そういう知恵がもともとこの小さな生き物には備わっているのかもしれない。
フグには申し訳ないが、普段は我関せずと1匹狼のように暮らしているフグたちが、団結している姿を見るのは少し微笑ましくもある。飼育下にいる生き物にとって、多少のストレスは必要なものなのかもしれない。

生き物を飼っているとしばしば不思議な場面にでくわす。また種としての特徴だけでなく、それぞれの個体にもひとつひとつ違いがあって、小さな発見があるから面白い。動物園や水族館のガラスごしには見えないものが、ともに生活することで見えてくる。生き物の不思議、生命の尊さ、いろいろな気づきがそこにはある。