第四十五回 竹籠の前後に時は流れる

ことしも年始から全力で仕事をしています。竹籠づくりの仕事について、最も頻繁に訊かれることのひとつが制作時間についてであると以前にも記しました。今回は工程の一部を抜粋しながら、駆け足でその道のりをお見せします。

籠を作るには用途に応じた形や大きさを検討し、時に応じて面図などを用意して必要な材料の寸法と数量を求めます。それらの準備が整ったら、太さや長さ、硬さなど性質の適した竹を選び、いよいよ鉈で割ります。
 
(左)竹を鉈で半分に割る 画像(中央)竹を細く割り・薄く剝ぐ 画像(右)幅や厚みを均一にする

まず半分に。そこから細く割り、薄く剥いでを繰り返します。一対の小刀で幅を均一に揃え、面取りを。さらに厚みを整えて、ようやく材料の竹ひごが出来上がります。一つの籠に複数の種類の竹ひごを用いることもあります。こうした竹ひご以外にも、縁や補強、装飾などの目的で多数の材料を作ることもありますし、縁を巻くのに細い籐を用意したりも。

 
(右)平面に編み広げる 画像(中央)立体にして縁をつける 画像(左)『散歩者の籠』ができました

多くの場合、籠は平面で編みはじめ、編み目を整えながら、力を加えて立体にします。用意した縁を付け、必要な仕上げをすれば籠の形に。手を付けて出来上がったのは『散歩者の籠』と名付けている私の連作の竹籠です。

「つくる」ことを単に作業として捉えれば、これがその工程の概要ですが、私は「つくる」をもう少し大きく捉えています。竹の仕事を志してから、じき十五年。その私の前にも幾世代、数百年、数千年におよぶ先人の歴史、竹の歴史があり、人の暮らしの歴史があります。

籠を求めてくださる方にも、それぞれ歩まれた歴史、籠を求めるに至った理由があります。籠を手にされてからも時間はつづき、次世代へ、その先へと流れ得る時間は、一体どれほどつづくのか想像も付きません。ものづくりの仕事には、単にひとつの物体をつくるだけでなく、その前後に途方もない時間があることを、畏れとともに意識せざるを得ません。

籠の前後に流れる時間を見つめながら、この仕事にたずさわる私の時間もまだまだつづきます。

さて、この連載は45回を迎えました。今回をもって一旦筆を措くことにしたいとおもいます。以前より考えていたことで、50回までとも考えましたが、50回を迎えるであろう一年後までの時間を借りて、私の仕事に費やすつもりです。長い間、拙文にお付き合いくださりありがとうございました。いつか、またどこかでお目にかかる日まで。

 

このページの先頭へ戻る