第二十九回 冬の青、春の青

竹は秋から冬にかけて伐るのが良いとされています。稈(かん)に含まれる水分や養分の少ないこの時期に伐られた竹には虫が付きにくいと言われ、同時に農閑期でもあることから、自然やそれに寄り添う暮らしのサイクルに適した伐採時期だと言えます。春に出てきた筍もいまは大きく成長して、前年からの竹のように濃い緑色となり、周囲の木々が紅葉から落葉へと変わるなかで、竹の青さがいっそう目に眩しいものです。そんな年の瀬、私の手元にも少しばかりの青竹が。
 
太いマダケの青竹

ふだんの制作では、青竹ではなく長期の保存に適した白竹を用いておりますが、年末には伐りたての青竹を分けて頂いたり、あるいは伐らせて頂くこともあります。年内に伐られた青竹は、翌年の春までには使ってしまうか、油抜きという処理を施して白竹として保存します。また、昔の草葺きの屋根に使われていたのは青竹で、屋根を支えつつ幾世代ものあいだ囲炉裏の煙を浴びると美しい煤竹へと変じます。いずれの姿も美しいものですが、すべてのはじまりは青竹から。美しい青竹の育つ美しい竹林があってこそ、その先のものづくりができます。
 
マダケの青竹、白竹、煤竹

以前にも書きましたが、竹は人の手で伐って加工することでその命を永らえることができます。いくら美しい青竹でも生やしたままでは残すことが出来ません。師走を迎えて青竹を手にすると、果たして自分の手を経て竹を生かすことが出来ているのだろうか、と自問するのは毎年のことです。

もう幾つ寝るとお正月、門松としての青竹を目にするのも間近です。一口に門松と言っても、姿形には多様なバリエーションがあるもので、三年前の正月に都内各地の門松を見て回った際には、竹の種類や門松としての仕上げもそれぞれに違うことに驚きました。個人的に素材としての竹の素晴らしさナンバーワンと感じたのは新宿伊勢丹百貨店の門松でしたが、次はどうでしょう。静かな正月の町で門松探訪という初詣でをしてみるのも楽しいものです。

では、どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。

 

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