徳島県編 その四

幼いころ、金沢の香林坊というところに住んでいました。城下町金沢の中心にあって金沢城跡の石垣がすぐ近くにあって、近所の悪ガキグループの大将「よしのり君」が率先してあたりのガキ共を誘い、「探検だ」といってよくのぼりました。石垣が途切れ、洞穴が現れ私たちは興奮したものです。奥まで進むと湿った土と苔の匂いが充満して、ひんやりとした霊気を感じました。防空壕に使われていたものか、いつの間にかその穴は閉じられてしまっていました。

そんな当時の洞穴探検を思い出す場所に出会いました。徳島県勝浦郡上勝町の最南端に位置する「杉地集落」。標高400~600メートル。杉地谷川に沿って東西へ広がる集落です。「上勝部落小史」によると、天正5年(1577年・桃山時代)伊予河上城(現在の愛媛県)から落ちのびた武将の一族が開いたと伝えられています。
大小様々な石を組み合わせた石垣は、戦国時代の技術集団「穴太衆」が使った工法だそうで、兵庫県朝来市にある竹田城や、滋賀県近江八幡市の安土城と似ており、なぜこの工法がここに伝わっているのかは謎だといわれています。ここに吉成家の屋敷が建っていました。
集落の中には二つの滝と二つの神社があります。そしてそびえる巨大な岩でできた「吉ヶ平の岩屋」には、善如龍王が祀られています。天元元年(824年)干ばつが続いた時に弘法大師がインドから呼び寄せ大雨を降らせたという神。干ばつの時にはこの集落の人たちが祈った場所であったのでしょう。

杉地集落吉ヶ平の岩屋吉成隧道

落ち延びた武将たちとその一族は石垣を積み屋敷を建て、田で米を作り、祭事を行い、子を産み子孫をつないで来ました。

もし私がその部族の一員としてこの森に初めて入ったらまず何をするのだろう。家を建てる場所の草を刈るのか、それとも長旅をしてきた家族のために、食べられるキノコを探すのか。水を探し薪を集め、きっと火をおこすのでしょう。きっと夫は石組みのための石を探しているのでしょう。

そんなことを思いながら集落の入り口にあるカフェポールスターへ。洗練された店内と山の幸たっぷりのランチで、古人のくらしに思いをはせました。

カフェポールスターカフェポールスターカフェポールスター