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第1話 みんな「自分の世界」

星信郎(水彩画家)
1960年~2002年在籍

ぼくが、みんなの「セツ物語」に、コメントを書くと、そんなことまで、よく覚えていますねえ、と言われる。でも、ぼくはねえ、記憶力、ダメなんです。学科試験みたいな記憶力は。状況で感じ取っている記憶力はあるんです。名前を聞くと、あ、そういえばって、記憶が蘇るというんですかね。勝手に入り込んだ記憶は、残っているんだなあ。だって、卒業生って何千人でしょう。何万までいってるかなあ。卒業までいないコも多いからね。それでヨシ、としていたからね、セツ先生は。これで卒業って、絵の場合はないですからね。コレとコレとコレをやって卒業というのは、ないですからね。

コメントに、知っているけど書けない話って、いっぱいありますよ。いろいろあります、実はね。セツの場合、先生も生徒もごちゃ混ぜになっていることが多いから、いろいろ知ってます。授業中は、緊張状態ですからね。会話なんか、ない。放課後や休憩時間ですね、セツの面白かったのは。授業中は本気ですからね。一人一人が「自分の世界」に入っているんです。一緒にやってはいるけど、それぞれ「自分の世界」なんですよ。セツ先生が、一番「自分の世界」でしたよ。

だから、休憩時間、放課後は、その沈黙の反動の欲求不満解消。あの人の絵、いいよね、この人の絵いいよね、と話が飛び交う。その情報の中に、プライベートなことも、紛れ込む。それが絡まって、みんな成長できるんですよ。いっぱいいるから、生徒がお互い、教材なんですよ。セツ先生は、それを知っていたから、人が集まるということを、大切にしたんです。あの人は、マンツーマンというのが大嫌いでしたからね。

(つづく)

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  1. 伊野孝行 より:

    さすが星先生の話にはさりげない含蓄があって面白いです。つづきを楽しみにしています。

  2. 内川瞳 より:

    星先生。お疲れ様でした。
    星先生からお話頂いた時から楽しい”私のセツ物語”を書くことが出来て長沢節先生をあらためて偲ぶ日々を与えて貰って幸せな気分になったものでした。
    この世に似たような人が居ない長沢節という素敵で偉大な人物が如何に多くの画学生に影響を与えた事かと。
    この企画が終わってしまいましたが、またいつか、このような思い出の中のセツモードセミナー仲間が年代を超えて知り合えるのを楽しみにしています。内川ひとみ。

  3. 星信郎 より:

    伊野くん コメントありがとう❗️

    セツで僕は、Cデッサン 群像デッサン 友達デッサンなど、おかげさまで沢山やれた。デッサンなんて後からいつでもできるかなと思っていたが、実はそんなことなかった。 伊野くんモデルの、きもの姿なんて、あとから描ける機会は絶対にない。おそまきながら感謝感謝かな。

  4. 星信郎 より:

    内川瞳さま
    むかしむかしの瞳ちゃんだったころ、僕たちは瞳ちゃんを、もう見なくても描けるぐらい沢山モデルをして下さいましたね。セツ先生は、いつもモデルはカミサマでした。

  5. A より:

    もっと読みたいなぁと思いました。
    続きを楽しみにしています。

  6. 小池アミイゴ より:

    俺は「知っているけど書けない話」担当ですかね。。

  7. 星信郎 より:

    Aさん コメントありがとうございます。
    つづきも、なんということないが、見て下さい。

  8. 星信郎 より:

    小池アミイゴさま
    昔から、小池くんはいつも忙しい人だった、卒業してからも、、ひょんな所でばったり会う。だから僕より何でも知っている。
    知っているけど書けない話し。セツ先生がいちばん怖かった人は誰か? それは掃除のおばさん。その次は事務室の西田さん、でしたよね。

  9. 金子なぎさ より:

    星先生

    お変わりない優しい語り口の文章で一気にセツ先生と懐かしいあの頃が思い出されました。
    それで「セツ物語」の絵とコラムと星先生のコメントをゆっくりと読み返させていただいています。
    セツ先生や先生方が話してくださったこと、思い返すことができて幸いです。
    つづきを楽しみにしています。

  10. 星信郎 より:

    金子なぎささん コメントありがとうございます。 
    あの口癖のような「モデルを見ながら一周して、いちばん好きなところを見つけてから描きなさい!」の掛け声。 一周して、さっきのとこへ戻ってみても、そこはもう空き地ではなかった、あの矛盾さ。「それでいいんだよ、ここがいいと思ったところが3回あったら3枚デッサンしたことになるよ」ということでしたが。ほお〜、考えてしまう。 センセイズルイ!「そんなこと言いながら自分でいちばんいい場所とってしまう」 そんな風でしたね。

  11. 小栗麗加 より:

    「私のセツ物語」久しぶりにひょっこりのぞいたら星先生のデッサンと文!待ってました~~!髪とリボンと長めの袖から見える指…そして女の子の表情…キュンキュンしちゃいました~!星先生の「セツばなし」は山のようにあると思います。帰りの小田急線でたまにご一緒した時「長沢先生は電車で座るの好きだから空いてる席があるとすっ飛んで行く」などなど笑っちゃうエピソード色々覚えています。ずーっと連載して欲しいです。

  12. 大橋未生 より:

    最近、先生どうされているかなぁと思っていたら、私も遅まきながらこちらの連載に気づきました!
    先生のお話、やっぱりいいですね。

    先日、セツモードを思い出すようなお花屋さんに出会いました。パレットを洗う流し場や、休憩の時間のラウンジ、そして中庭を彷彿させる空間で、思わずセツに行きたくなってしまいました。

  13. 星信郎 より:

    小栗麗加さん コメントありがとうございます。
    そうですね、ちょっとここでは語れない面白いこと沢山ありますが、セツ先生は映画館での席取りも超キビンでしたよ。

    このデッサンは30年以上前ので、セツの教室で描いた友だちデッサンです。いまも北村君がやってる代々木デッサン会に参加してるけど、ちっともウマクなっていません。

  14. 星信郎 より:

    大橋未生さん 久しぶりです、 お元気そうですね。
    セツの庭、狭いながらも桜の木、ポプラの木 自然に生えたアカシヤ 杉の木など、盛りだくさんでしたね。そこへ休憩時間の生徒たち わんさかと溢れそになってました。 ベランダのゼラニウムはセツ先生の愛した花でしたが、すこし枯れかかった花びらを掃除のおばちゃんがチョンチョンと手でむしり取ってしまうので、それがとってもセツ先生は辛かったようでした。可笑しいね〜。

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