「うますぎるとダメらしいよ。」
と誰かが言った。
入学して初めての水彩画授業の講評会。どうやら立体感や陰影などをリアルに描写する、いわゆる”美大風”の絵は好まれないらしい。
幸か不幸か、あんまりうまくなかった私は無事にA(良い)をもらうことができた。
アルバイトをしながらイラストレーターになることを夢見ていた20代前半、イラストレーターの年鑑を見ると好きな絵のイラストレータのプロフィールには必ず”セツモードセミナー卒業”と書いてあった。
バイトで思いがけないボーナスをもらい、それがセツの入学金と同じ金額だった。
よっしゃ、このお金でセツに行くぞ!
入学希望者の多いセツはくじ引き制。最も倍率の高い夜間部に運良く1度目で当選。
トントン拍子で憧れのセツライフを送ることとなった。
なんせセツは居心地が良かった。
週3日、1日3時間の授業、自由気ままな校風、休憩時間に先生方がいれてくれる美味しいコーヒーとおしゃべり。
授業が終わり学校の階段を降りると上級生たちが「バカラ亭行くひと~」と飲み仲間を集っている。バカラ亭は四谷三丁目にあるセツ生御用達の居酒屋だ。
バカラ亭にも週2~3回出席していた…とても出席率のいい生徒だった。
2年の本科修了後、研究科に進みセツゲリラになった。
セツゲリラは研究生代表として審査を経て選出されたメンバーの称号だ。
ゲリラ卒業生の中にはプロのイラストレーターはもちろん、大きなコンペで賞をとった人もたくさんいた。
夢に一歩近づけたようでとても嬉しかった。
セツゲリラ展の最中、
「これからは5年生が修了した時点で自動的にゲリラは卒業!」セツ先生の突然の宣言。
えーっ!とゲリラ生たちから驚きと不満の声があがる。
それまでは望めば何年だってゲリラに在籍していることができたのだ。
「おまえら、そうでもしないといつまでもぬるま湯につかって外の世界へ出ていかないじゃないか」
そんなようなことを言うと、セツ先生はくるりと背を向けてスタスタと行ってしまった。
クールでスタイリッシュで、厳しくて優しい先生だった。
ゲリラを卒業後、もう少し時間はかかったけれど夢はかなった。
トリイツカさん
これは懐かしい!美しい! セツのコーヒーカウンター上には大きなコーヒミルが、どかっと置いてあって、実用と、なごみのアートでしたね。そして、どの先生もそうでしたがコーヒーを淹れてる時が一番シンケンだったように思います。
セツ先生は自分のコタツの横へ牛乳を置いて、発酵ヨーグルトにし砂糖を入れて一杯100円で売ってたこともありましたよ。山梨ワインをコップ一杯100円というのもありましたが、これは酔っぱらい者があらわれて、間もなく止めてます。
そんなこんなで楽しいはずのセツロビーも、あのバカラ亭にはかなわない。僕も、酒も飲めないくせによく通ったもんです。
星先生
喜んでいただけて嬉しいです!
今回依頼されて、真っ先にこのカウンターを描きたいと思いました。
初めてセツを訪れた時、ロビーの階段を登って目に入ったこのコーヒーミルがとても印象的でした。
先生方の入れてくれたコーヒー、本当に美味しかった。その時の経験からか、今でも大のコーヒー党です。
ワインの販売は傑作ですね!さすがセツです。
きっと私もおかわりしてデッサンどころではなくなっていたかもしれません 笑
それにしても、星先生の記憶力はすごいですね!
他の方への星先生のコメントを拝読しながら色々と懐かしく思い出しています。