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若葉の頃と憧れと

柴田詩子(主婦)
1986年~1998?年在籍

セツモードセミナーに入学したのは19才の春で緊張が強くて馴染めず、本科の2年間はそれほど通えなかった。若くてバカで体力がなかった。
 ちょうど抽選入学の始まりの年で学生の数も多く、学校の中も生徒があふれていた。今思うと熱気がみなぎっていて、良くも悪くもあった頃だったのかもしれない。

ほとんど通えなくても卒業制作の作品が誉められ、調子にのって研究科へ進んだ。が、また通えなくなった。

何度も何度も研究科をやり直して、
 ようやく25才から30才の頃に夢中になって絵を描いた。

私の中でセツ先生は不変だ。

物質としての存在は失われても、今でも四谷三丁目辺りの空の上で暮らされていると思う。四方が窓の広いワンルームでスッポンポンでも誰にも見られないから平気とシャワーもトイレも丸見え。シャワーで使ったタオルで拭けば水回りもいつもキレイ。タオルはそのまま洗濯機へポイ。
 6月は千葉県の大原漁港、夏には南仏ヴィルフランシュのウエルカムホテルの空の上に行かれているのだと思う。ずっとそう思っている。

形式的な「お別れ」をしたかもしれないけれど、人の思いってお別れできるもの
じゃない。
 忘れる時が来るまで「お別れ」と言うものは無いと思っている。

私が憧れたセツ先生の姿を少し。

文藝春秋画廊での個展のお手伝いをしていた時、会場は盛況で受付も混んでいた。天気の悪い日で、いつの間にか傘立ての傘があふれていた。受付の仕事をしながら傘立てを気にするも、私を含め手伝いをしていた誰もが忙しくしていた。

するとセツ先生が自ら傘をたたんで片付けはじめていた。クルクルっと巻いて並べている。あふれていた傘をドンドン片付けていく。
 フラリと入って来て先生に傘を渡す人までいたが、先生は気にせず受け取りクルクルと巻いて傘立てに入れていた。
 受付の手が空いた時に、先生の所へ行きお詫びを告げようとしたら「なんだいそんな事気にしなくていいよ。みんな忙しいんだからね。おまえもゴクロウサマ。」と、逆に労われてしまった。

他にもある。
 画廊の外に面して飾ってある絵を見て立ち止まっている人に自ら「どうぞ中の絵もご覧になって下さい。」と軽やかに声をかける、頭を下げる。

私にこれほど人の基本姿勢をさりげなく、美しく、偉ぶることなく見せてくれた人はそれまでいなかった。
 すごい!すごい!
 先生ってすごい!とひとりで感激していた。

先生は自画自賛は好きだけど、必要以上にほめられるのは苦手な様子で、一度目は笑って聞くけど何度もほめる人からはスッと離れる。
 賑やかな方々とも一緒に写真に写るサービスもするけどすぐにスッと離れちゃう。
 猫のような軽やかさでスッと移動してしまうのだ。

もちろん例外はある。お気に入りのカメラマンが来場した時は満面の笑顔で迎え、近寄り、案内していた。
 多分腕も組んでいた。好きな人には真っ直ぐだった。

セツモードセミナーの諸先生方から教えていただいた事も山ほどある。端的な言
葉にさせて頂くと

西田さんの一徹さ
 星先生の柔らかさ
 初川先生のチャーミングさ
 井沢さんの優しい佇まい
 村松先生の静けさ
 清水先生の朗らかさ
 黒木先生の聡明な強さ
 ファッション科の(ファッション科にも在籍した)
 浅賀先生のユーモアとゴージャスさ
 能登先生のエレガントさ
 そしてセツ先生の軽やかさ

皆それぞれが美しくて私の憧れの姿だ。

セツモードセミナーに通っていた頃は泣いたり、笑ったり、悩んだり、迷ったり
 そんな毎日で、お金は無いけど時間だけは沢山あって
 お茶とおしゃべりと絵を描くことだけで生きていた様な
 そんな時間だった。

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  1. 間中ムーチョ より:

    詩子さぁ〜ん♪最高〜♪♪♪♪♪

    詩子さんの優しい声が聞こえてきました。セツでお喋りした時みたいに、懐かしく嬉しい♪ありがとうございます♪

    セツ先生が傘をクルクルしている感じが目にうかびます♪ぷぷぷ♪

    詩子さんのエネルギーに満ちあふれた絵がセツに飾られていて、描いた人はどんな人なんだろうなぁ〜と、詩子さんに お会いしたことがなかったので、会ってみたいなぁ〜と思っておりました。
    だから、セツで お会い出来た時、めちゃめちゃ嬉しかったです♪

    初川先生も素敵な先生だったよと以前どなたかに教えいただき、初川先生にも お会いしてみたかったなぁ〜。

    今日も雨♪
    私の傘も濡れています。
    セツ先生のマネをしてクルクル楽しくたたんでみます♪
    これから傘をクルクルするとき、セツ先生と並んでクルクルしている気分になれます♪ありがとう詩子さん♪

    • 柴田詩子 より:

      間中ムーチョ様

      コメントありがとうございます♪

      こんなにほめてもらったことは私の人生で初めてかもしれません。
      とっても嬉しいです。
      本当にありがとう!

      初川先生もとっても誉め上手で、
      「きれいね~、ほんとうにきれい。」
      と少女のように伝えてくれるのでなんだか自分もきれいになれるようでした。
      きれいなのはあくまで画面なのですが(笑)
      白いズック靴と淡い色のソックスが良く似合う大人の少女でした。

  2. 元・花屋の玲子 より:

    詩ちゃんの絵が見られる!というので来ました。
    やっぱり詩ちゃんの絵で、しっかり節先生だ!さすが!色の濃い眼鏡越しに時折見える鋭い瞳とか…

    お茶とおしゃべりと絵を描くことで生きていた毎日の、結構な時間を一緒に過ごせて幸せなゲリラ時代でした。
    私が知ってる詩ちゃんは、いつもセツにいたし、水彩モデルもよくやってたから、通えなかった時期があるなんて嘘みたい。

    詩ちゃんは展覧会前などでも、
    夏休みの宿題7月中に終えちゃう子みたいに、いつもすご〜く早くに描きあげてるのに、作品は全部(時にはゾッとするくらい)カッコよくて、8月31日に徹夜してるような私からすれば、常に神がかってました。

    日常の詩ちゃんには、生活することの美しさをたくさん見せてもらいました。センスってこういう事なんだな..と。
    これからも、詩子の美学を見せ続けてくださいね。

    • 元・時計店の娘の詩子より より:

      玲子様

      セツゲリラ時代を玲子様とご一緒できたのは私の一生の宝物です☆

      こんなに愛溢れるコメントありがとうございます。

      本当はあの頃ふたりで一晩中遊んだ翌日に、私の部屋で描いたセツ先生の絵を探したのですが見つからず、今回はあれを思い出しつつ描きました。

      熱い話もたくさんしたはずなのに玲子様はいつでも私の記憶の中では笑顔で、それもとびきりの美少女です。

      セツ先生はよくキレイな男も女も絵は今ひとつとおっしゃっていましたが、
      例外はある!と実証されていましたね。絵もとてもキレイな世界を描いていましたから♪

      あの蒼く透明で深く静か世界観が、この明るく楽しい人から生まれるのだと不思議に感じつつ玲子様のとなりで笑っているのが楽しかったです。

      何年も会えなくてもすぐに笑顔が思い出せる友達でいてくれてありがとう~

  3. 久保田寛子 より:

    詩子さんご無沙汰です。
    間中さんから聞いて楽しみにしてました。
    ぶわーっと頭の中に自分も通ってたころのセツの景色が浮かんできました。
    文章も絵も素敵です。ありがとうございました!

    • 柴田詩子 より:

      久保田さん

      お久しぶりです。
      楽しみにしてくださってありがとうございます(^o^)

      それぞれのセツでの過ごし方は違ってもセツで感じた事やあの空気が感じられますようにと描きました、書きました。

      久保田さんの描くのびやかな画面にどれだけ魅了されたことか!

      今でも久保田さんに描いてもらった絵のカードを見るとドキドキします。

      ありがとう!

  4. 星信郎 より:

    おやおや元女生徒たち4人で、コメントのやりとりで賑わってますね、ボクが入っても、いいかな?

    昔から柴田さんのパワフルな絵には圧倒されましたが、いまも健在ですね。19歳ごろは弱気だったとは、とても不思議です。表現は、うらはらに、でしょうか。

    センセイたちへの寸評は、これ褒めてるんだよね、これ褒めすぎかな? ぼく以外は全部あたってる!と思いましたよ。セツ先生の軽やかさは、人を安心させるものがありましたね。

    6月23日はセツ先生の命日です。 写生会で先生が転倒してしまった前の前の日に、わいわいとマリンテラスの車で蛍をみに行きましが、そこには花屋の娘、玲子さんも同乗してたように記憶しているが、 これは夢幻かな?

    柴田さんの物語りで、いろいろと甦りました。そしてセツ先生は、柴田さんの心の中に今も生きてますね。ホシ

    • 間中ムーチョ より:

      嬉し〜〜〜〜〜い♪♪♪

      ふふふ、セツでコーヒーをいれながら、階段の横の席に座っている私たちの会話を聞いて下さっているときの星先生が今、そこにいてくださって、見守っていただいているような、あったかい気持ちになりました♪幸せいっぱい、ありがとうございます♪

  5. 柴田詩子 より:

    星先生へ

    間中ムーチョに先を越されてしまった~(^o^)

    星先生

    ほらやっぱり先生は柔らかいのです!
    「穏やかさ」にしようかと一瞬思ったのですが、先生の空気はそれを超えて柔らかくてみんながにっこりする空気を運んでくれるのです。

    セツ先生も時々星先生に「ね、お父さん!」とかおっしゃてましたが、あのセツ先生をも甘やかせれたのは星先生ぐらいでしょう。
    決して「お父さん」ではないのですが、多感な頃の女子、男子、多感は過ぎて曲者になっている男女にとって
    星先生の「やあ、ひさしぶり」と言う声かけだけで心がどれほど潤ったことか!
    そして今なお潤います。

    やっぱり星先生はやわらかい
    先生の絵のようにやわらかい
    先生の線のようにやわらかい
    だから先生の淹れるコーヒーは
    美味しい

    素敵なコメントありがとうございました
    先生に会える日を楽しみにしています!

  6. 元・花屋の玲子 より:

    星先生!
    わーい!ありがとうございます!
    マリンテラス、蛍、懐かしいです。
    記憶が曖昧でしたが、
    あの年でしたか..節先生。
    漁港を自転車で走り抜けるお姿も軽やかだったので、転倒で、なんて信じられませんでした。

    集まれば延々と喋ってる私たちに、
    星先生はいつもにこやかに、
    本当にやわらかーく
    あたたかく接してくださいました。
    節先生に「お父さん」って言われて
    苦笑する星先生も思い出しました(笑)

    リアルでお会いできる日が
    早く来ますように。

  7. 星信郎 より:

    花屋の玲子さん あなたが自分うちのお店から持ってきた花を、セツの生物水彩で飾ったことが何度かありましたね。 
    大原港写生会では、ゴトークン、善ちゃんも懐かしい。みんな元気だろうか? 晴海食堂のオバチャンはいまも元気らしいよ。 セツ先生を知らないセツの卒業生たちが、ここ数年間つづけて大原写生会をやってるそうです。そのことが朝日新聞に載ってました。ホシ

  8. 元・花屋の玲子 より:

    星先生

    お花、授業で使っていただいた後も、
    お手入れが良かったのか、なかなか枯れず、しばらく教室のいろんな場所に飾っていただきましたね。どこを切り取っても絵になる教室で、お花がより映える場所でした。

    晴海のおばちゃん!
    お元気でなによりです。
    大原写生会が今も受け継がれてるなんて、一度のぞいてみたいです。

    ゴトークンは元気ですよ!
    コロナ禍のおかげで、以前より健康的な生活を送ってます^ ^

    詩ちゃんと星先生のおかげで、普段使ってない脳が動いた感じ。
    もっといろいろお話したいです、お茶しながら。
    ありがとうございます!

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