
写真・楠本哲義さん 文・前田奈緒美
店を畳むことが決まってから 毎日多くの方が 店を訪れてくれている。私の知らない創業当時のエピソードを聞かせてもらったり 懐かしい人と対面したり ご褒美みたいな濃密な最後の時間が流れる店内。20年ほど前まで店のカウンターの上には「ちろ」という名前のポメラニアンが座っていて「ちろ」に会いに来る子どもたちもたくさんいた。「ちろ」目当てだった子どもたちは すっかり大人になり「ちろ」はもう居ないけど 時々店に顔を出してくれる。彼らそれぞれの家族の歴史は 写真を通して私たちの心にも刻まれていて 遠縁のおばちゃんみたいな気持ちで 皆さんの様子を見守らせてもらっている。写真という紙切れには 様々な想いや物語が詰まっていて 人びとは その紙切れにまた想いを重ねる。暮らしの中の大切な場面には必ずカメラがあり 写真として残ってゆく。そのお手伝いをさせてもらえているこの仕事が大好きだし 誇りに思う。夢を紡ぐような仕事だとも思う。ずっとその人の傍にこの写真があり続けることを感じながら 写真を焼き付けてきました。そして私たちの胸にもその像は焼き付けられています。「ちろ」ちゃんの写真屋さんは なくなるけれど きっとあの子たちの心の中には 「ちろ」ちゃんと一緒にこの店もあり続けるのだろうと思うと とても嬉しいです。フォーカスの閉店とともに『長崎パチリ』は 最終回となります。長い間 お読み頂きありがとうございました!