
写真と文章
フォーカスのひと・前田奈緒美(長崎市片淵町在住)
長崎は 数多くの流行歌の舞台となってきました。自らも被爆しながら被爆医療に従事した故・永井隆博士のベストセラー随筆を元に歌われた「長崎の鐘」(昭和24年)は 戦争で傷ついた人びとの心の拠りどころとなりました。「長崎は今日も雨だった~!」(昭和44年)と 雨の長崎を訪れた旅人の声を耳にするのも 数え切れないほどです。歌謡曲の新しい流れを作るべく「長崎歌謡祭」という歌の祭典が毎年開催されていた時期もありました。流行りものが多様化した今と違い 昭和の流行歌は 時代そのもの 暮らしの一部でした。昭和23年大ヒットした「長崎のザボン売り」という曲があります。ザボンという南国から来た大きな果物 それを売るかわいい娘さん ザボンや娘さんを育む温暖な気候の長崎の風景が 明るいメロディに乗って歌われています。ラジオやレコードから流れるこの曲を みんなで歌い 長崎にいつか行ってみたいと願ったのでしょうか。戦後の暗いムードを吹き飛ばすような夢や希望が 歌に込められていた時代。モノが溢れ満たされているように見える今のわたしたちよりも 当時の人びとの心はとても豊かだったのかも と思いながら おぼえたてのザボン売りの歌を口ずさんでいます。