高校生の頃、雑誌で見かけて長沢節先生の絵のファンになりました。就職してしばらく経ち、好きだった絵を学んでみたいと思い始めたときセツ・モードセミナーには夜間部があることを知り、2年目のチャレンジで晴れて抽選で選ばれ入学できました。
初めて訪れたときは、校舎の瀟洒な外観と中に入るとコルビジュエを彷彿とさせる空間に魅了され、その後現れた節先生の強い存在感に圧倒されたことが鮮明に思い出されます。
学校の雰囲気は「自由さ+上品さ」をモットーに節先生の美意識が隅々まで行き届いた心地よい空間で、さあ絵を描こう、という気がみなぎります。集中して絵を描いていると、休み時間前にコーヒーの香りが漂ってきます。そして、生徒たちは階下に降りて、セツカフェで先生方の淹れてくださるコーヒーを楽しみます。
節先生はよく、お気に入りの男の子の耳を引っ張って冗談を言い、周囲が笑うより先にご自分が「プーッ!」と言って笑ったり、自分の絵を皆に見せて、すごいでしょーというチャーミングな面があり、そういう光景を私を含め多くの生徒は遠目に微笑ましく見ていました。一方で気軽に話しかけられない緊張感も纏っていて、私は話しかけられている生徒さんをうらやましく思いながら、いつもあいさつぐらいしかできませんでした。
デッサンの授業では、モデルの周りを回って、一番美しい形の角度から描くんだよ、と教えてもらいました。先生と一緒に描ける!というのはいつも新鮮でうれしく、夢中になって何枚も描きました。
一方、人物水彩の授業は苦手でした。講評会で生徒全員の絵をぐるっと壁に張り出し、節先生が良い絵を棒で指して「Aー!」と評価するときの良い絵とそうでない絵が、最初はさっぱりわからなかったのです。回を重ねて少しずつなんとなくわかってきた気がしても、あれ?こっちは良くてこれは違うのか…わからない自分はセンスがないのかな…と落ち込むこともしばしばありました。
何回か通ううちに、授業で描いたお互いの作品についての感想はもちろんのこと、アートや音楽について話ができる友達もできました。休み時間のセツカフェでのコーヒーを飲みながらのお喋りだけでは飽き足らず、授業後は頻繁に近くのフレッシュネスバーガーか居酒屋に行っていつまでも喋っていました。
仕事の帰りにセツに通うことが何よりも楽しく、もう一度学生時代がきたかのようでした。
あっという間に本科の2年が終わりに近づき、まだまだ学び足りず研究科に進むことにしました。
研究科の試験として、作品を一人ずつ先生に見てもらいます。「Aー!」ももらえなかったのに、合格できるだろうかと不安でしたが必死になって作品を描きました。結果は…
「イイね!いい!合格!」
という節先生の言葉。飛び上がるほどうれしかったです。
しかしながら、大変悲しいことに研究科に進んだその年、私も参加した大原旅行での転倒がもとで、節先生は帰らぬ人となってしまわれました。
次こそ「Aー!」をもらいたかった、会社を辞めてでもヨーロッパ写生旅行に参加すればよかった。なによりもっとお話しをしてみたかった…と悔やまれます。
あの場所で節先生に教わることができたこと、最後にいただいた「イイね!」の言葉に今も励まされ続けています。
宮前さん こんにちは。 先日ギャラリーQuo vadisでお会いしましたね。
セツ先生ポートレートは、上品に自由に枯淡の味わい。これを先生がみれたら、さぞかしゴマンゾクであったでしょうね。 ジャケットのピンク色は自由の象徴か?
セツ先生の上品さと世間の上品さはあべこべだったりして、可笑しく面白く難解でしたね。
デッサンの時も写生の時も、「グルグルまわって自分のいちばん好きな位置を探しなさい」という言葉は、僕たちがセツに入学した時から何十年ずう〜っと続いてましたよ。 思うに、それがとっても大事なことらしい。