小さなお宿「ぼっかって」

小さなお宿「ぼっかって」


おくどさんの鎮座する台所

おくどさんの鎮座する台所


ぼっかってのおいしい朝ご飯

ぼっかってのおいしい朝ご飯


ぼっかって
 
自然農で育つ力強い稲

自然農で育つ力強い稲


ぼっかって
 
まゆかちゃんとアキフミ君

まゆかちゃんとアキフミ君

綾部・志賀郷に暮らすアキフミ君とまゆかちゃんは、自然農でお米や野菜を育てながら「ぼっかって」という農家民宿を営んでいます。アキフミ君はアーティストでもあり「百姓カルタ」という愛らしいカルタを作ったり、流木でオブジェを作ったりしています。まゆかちゃんの作る卵・乳製品不使用の「ぼっかって」クッキーはお店でも大人気。クッキーとともに古代米やマコモ茶や最近では甘酒と米粉のグラノーラも。よい素材できちんと、食べる人のことを思って作ってくれているおやつやお茶。どれも根気のいる手仕事で、商品として店頭に出すまでに、たくさんの試作を経ている。その丁寧さが味に生きているのです。だから、ぼっかっての商品は飛ぶように売れていきます。

お二人と初めて会ったのは、このコラムの1回目で登場してくれた秋山ミヤビちゃんたちが主宰していた自給農法研究会の場でした。よくわからないままその場に参加した私に、アキフミ君はフレンドリーに話しかけてくれ、まゆかちゃんはちょっと笑みを浮かべながら距離を保って私には近づいてこないのでした。ほっそりとして可愛くて、この人は子猫のようだな、と思いました。まことに初対面のその感じが、それぞれの人となりをよく物語るものだと思います。

昨年の夏の終わりに私は友人とともに農家民宿「ぼっかって」を訪れました。敷地の入り口にあるサルスベリの花が満開でした。玄関の壁は志賀郷在住のハタノワタルさんの和紙で設えられていました。床張りの台所の奥には広々とした土間台所があり、おくどさんが鎮座しています。黄色い電球の灯りが灯る茶の間、勝手口の外にあるトイレ、ガラス扉の向こうの風呂場、どこもかしこも懐かしい。そしてとても清潔でした。いたるところに活けられた可憐な野花に心遣いを感じます。夕暮れ時、夕飯までの間に「まむしが出るから気をつけなあかんねん〜」なんていいながらモンペ姿のまゆかちゃんが田んぼと畑を案内してくれました。美しく真っ直ぐスックと育つ見事な古代米を私ははじめて間近で見ました。二人で拵えてくれる晩ご飯もとてもおいしい。よく磨かれたお風呂の中には本が置いてあり、のんびり湯につかりながら読書が出来ます。温まった身体を蚊帳の中の布団に横たえたら、日頃の疲れがほどけて朝までぐっすりと眠ることが出来ました。快適、という言葉以外見当たらない、小さなお宿ぼっかってなのです。

お二人の暮らしの中でもひときわ際立って印象深かったのは、自然農で育てられた古代米でした。まっすぐ力強い美しいその稲の姿を見て、お二人が長年通ってらっしゃる川口由一さん主宰の「赤目自然農塾」にいつか参加してみたいと思ったのでした。それから約1年、先だってお二人について赤目自然農塾に参加させていただきました。山全体をゆるやかに区画割りして実地で自然農が学べるようになっており、現在200人近い方が学んでらっしゃいます。川口さんがお見えにならなくなって2年近く経つという塾は、初めての突然の参加者にもご飯と寝床を与えてくださり、その際、特に手続きもなく、やかましいルールもなく、なんら強制のない自由でおおらかな場でした。穏やかで均整のとれた場でした。山を巡って塾生のみなさんの畑を見せていただきました。一人一人違う。古代米の育ち具合も違う。ぼっかってで目にした、立派な古代米を思いました。赤目でスタッフとして楽しげに働くお二人には,その場に通い続けて身につけた確信があり、私はそれをうらやましい、と思いました。最先端だな、と思いました。

お二人が生み出すモノは、「儲けなきゃ」という価値観を軽々と飛び越えています。
一番大切なものはなに?目指す暮らしはどんな姿?幸せってなに?
そんな疑問の答えを、お二人は、手仕事を積み重ねる暮らしの中で、もはや見つけつつあるのだと思います。

プロフィール

井崎敦子
井崎敦子(いざき あつこ)
大学を卒業後、書店員、民藝店店員、デパート店員、NPO職員など職を転々。8年前、同志社大学大学院社会人講座・有機農業塾に入塾、長澤源一氏の指導を受ける。現在も大原で小さな畑を耕しつつ、一昨年6月、左京区にオーガニック八百屋カフェ「スコップ・アンド・ホー」をオープン。美味しいものを通じてつながってゆくご縁が嬉しい日々。

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